「威圧的外交は中国政府の伝統」「高市発言にサプライズはない」 欧米メディアは「日中対立」をどう論じているのか
社員に「日本出張禁止」を言い渡す中国国営企業
次に、一方の中国の対応を海外メディアがどう報じているか、見ていこう。
英フィナンシャル・タイムズ紙(以下、FT)は、主に中国政府の制裁による日本経済へのインパクトを報じている※3。
周知の通り中国政府は自国民に日本への旅行を自粛するよう、という通知を出している。
FTは中国からのインバウンドで稼いできた企業、資生堂やドン・キホーテを運営するPPIH、三越伊勢丹、ファーストリテイリングなどの株価が5~10%程度下落したことに言及。2012年の尖閣諸島問題発生時、訪日観光客が大きく減少したことを受け、今回も日本の経済界への影響は無視できないとしている。
同紙はさらに、中国の政府系企業が社員に対して実質的な「日本渡航禁止令」を発布していると報じる※4。
ある国営企業で働く従業員は「管理職から日本出張を全て中止せよ」と指示されたことを明かした。上海に拠点を置く政府系資産運用会社の子会社で勤務する投資担当者も経営陣から口頭で日本には行くな、と伝えられたそう。
同じく上海の政府系出版社で働く職員は、「物理的にパスポートを没収されなくても、警告は明確だ。『会社に隠れて日本に渡航した場合、どうなるか分かっているな』ということだ」と語ったと報じている。
高市政権の基盤の脆さを熟知する中国
先のWSJのミード氏は、高市首相の発言に対して中国政府が「反応」することは避けられなかったとしても、ここまでエスカレートさせる必要はなかったのでは、と首をかしげる。形式的な抗議で済ませ、数週間後には素知らぬ顔もできたのではないか、と言うのだ。
ミード氏は、中国が騒動を拡大させた理由は2つあると睨んでいる。
まず、高市政権の権力の脆さを突くこと。中国は長年「自民党の友」だった公明党が高市首相に対して、連立入りを拒否したことを知っている。日本維新の会との閣外協力で政権を運営しようとしているが、依然として基盤は固まっていない。
中国はタカ派の政権が権力を完全に掌握する前に、弱体化させたいと考えているのだと分析している。
2つ目に、威圧的な外交は中国政府の伝統であることを指摘している。国内の反体制派に対しても、反抗的な外国政府に対しても、中国政府は歴史的に威嚇・脅迫というカードを最初に切ってきた。
もし脅迫に相手が屈した場合、中国政府はそのまま利益を得る。仮に脅せなかったとしても、宥和的なアプローチに切り替えられる。つまり、中国政府にとってみると、「まず最初に脅すこと」そのものには、大したデメリットがないというのだ。
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