党税調人事にテコ入れも周りは“敵”だらけ? 高市総理の「積極財政」推進に立ちはだかる「2つの壁」

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 政府は11月21日の臨時閣議で、減税や成長投資などを含む「21.3兆円規模」の総合経済対策を決定した。高市早苗総理の掲げる「積極財政」が色濃く反映された中身だが、市場が財政悪化を懸念したことで、「債券安」と「円安」が進行。為替由来のさらなる物価高が懸念されるなど、改めて経済政策と財政を巡るかじ取りの難しさが露呈した格好だ。しかも、高市政権がさらなる経済政策を打ち出すには、多くの課題が山積しているという。『自民党税制調査会』(東洋経済新報社)の著者でジャーナリストの木代泰之氏に話を聞いた。

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「赤字国債」の歴史

 日本の税制を語る上で、避けては通れない論点に「赤字国債」の存在があります。

 1980年代は、赤字国債を発行するといっても、発行額は現在に比べれば微々たるもので、1987~1995年頃までは毎年の赤字国債の発行額をゼロに近づけようという方針が生きていました。しかし、いわゆる「失われた30年」が始まる1995年あたりから、赤字国債が大量に発行され、様々な事業にお金を回して経済成長を刺激しようとする期間が続きました。結果的にはそうした努力は無駄に終わり、財政は不健全に陥り、経済成長もできませんでした。

 90年代初頭のバブル崩壊以降、経済が成長しないために資金需要が減り、どんどん金利が下がっていきました。加えて2012年から2020年にかけての「アベノミクス」では、意図的に低金利政策を取りました。そうすることで、国債の残高が増えても、利払い費はそれほど増えずにすみました。だから、「安心して国債を発行しても大丈夫」というロジックで、国債残高はどんどん膨れ上がっていった。残高は現在約1100兆円(GDPの約2倍)に達しています。

 しかし、金利が上昇して正常に戻れば、国債の利払い費も膨れ上がることになります。いま懸念されているのはまさにその点です。利払い費を捻出するために、また国債を発行するという流れになれば、それは「最悪の悪循環」に陥ってしまう。

 実際、2026年度予算の利払い費は約13兆円と前年度より24%も急増し、過去最大になる見通しです。最近のマーケットでの金利上昇が大きく響いているのです。

 安倍政権は財務省を目の敵にし、官邸主導の財政を推し進めました。財務省が「このまま赤字国債への依存度を高め、金利が正常化したらどうするのか」と財政健全化をしつこく訴えるので、邪魔な存在だったのです。

金利が上がれば国債増発が難しくなる

 日銀は植田和男総裁のもと、アベノミクスによる低金利政策を終わらせ、少しずつ小刻みに金利を上げて正常化させようとしています。日銀は黒田総裁時代に異常なまでに買い込んだ国債(560兆円、発行残高全体の52%)も少しずつ手放し、少なくとも諸外国の水準に近づけようとしています。

 こうして、菅内閣、岸田内閣、石破内閣でようやく正常化に向けて動き出していた矢先に、安倍時代への逆行を志向する高市氏が首相となりました。

 高市総理は「積極財政」を公約に掲げています。もし日銀ペースで金利を上げられると、利払い費の問題で国債増発が抑えられ、公約を果たせなくなります。水面下では、高市V.S.日銀という対立の構図が生まれているのです。

 すでに国債市場では、国債増発による財政悪化を見越した投資ファンドが国債を売り逃げており、国債価格は急落(利回りは上昇)しています。為替も円安(11月21日現在157円台)に振れ、高市総理前に比べて10円も下落しました。

 株式市場も日経平均が一時は5万円を超えて「高市トレード」ともてはやされましたが、2週間程度で下落に転じています。つまり今は国債・為替・株のトリプル安という「日本全面売り」状態になっているのです。

 中でも国債の利回り上昇は、住宅ローンや自動車ローンの利率にもろに反映されるので深刻です。これから経済活動は、高市総理のいう「成長」どころか逆に冷え込むでしょう。また円安は輸出企業にはプラスですが、石油や食品の輸入物価を押し上げて、国民生活を苦しめるでしょう。

 つまり高市総理が「積極財政」や「物価対策」と称してお金をばらまいても、国民生活は逆に物価高に苦しめられるという皮肉なシナリオが待ち構えているのです。

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