党税調人事にテコ入れも周りは“敵”だらけ? 高市総理の「積極財政」推進に立ちはだかる「2つの壁」

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戦後の日本はずっと赤字国債の発行に慎重だった

 11月18日に植田総裁と高市総理が初会談をしました。新聞記事によると、高市氏は日銀の説明に「そういうことか」と言ったとあります。私は「高市さんは自分がやっていることの意味が解っていないのではないか」と思わず疑いました。

 アベノミクスが始まった時代(1ドル=80~90円、物価低迷)と今とは全く状況が違います。「後継者」だからと言って同じことをやるのは時代錯誤というほかありません。

 余談ですが、日銀が大量の国債を引き受けて政府の財源不足を穴埋めするやり方は、かつて太平洋戦争中に行われた歴史があります。軍事費を捻出するためで、日銀は輪転機を回して山のように紙幣を刷りました。そのままではインフレ(物価高)になるので、政府は物価統制令をつくり、品目ごとに監視や摘発を強めて物価上昇を抑え込みました。

 しかし、敗戦を迎えて物価統制が効かなくなると、すさまじいインフレが日本を襲いました。国民は戦時中に買った国債が二束三文になり、ほとんど財産を失いました。

 この歴史への反省から、戦後の日本はずっと赤字国債の発行に慎重でした。1965年に戦後初めて赤字国債を発行した当時の大蔵省高官は、私に「こんなことをして未来の日本に責任を持てるのかと夜も眠れない日が続いた」と吐露したことがあります。

 今では「禁じ手」だった日銀引き受けまでも平然と行われています。そのモラル、財政規律という正常な感覚は今や失われているのです。

 党税調については、色々な見方ができますが、財務省からすると、敵陣(自民党)に築いた「財務省の出先砦」という見方ができます。だからこそ、財務省と意思疎通しながら歩調を合わせて税制改正を進めてくれる「インナー」(税調幹部会合のメンバー)を育てようとしてきたのです。

 これまでは、十分に税制の仕組みや歴史、現行の税制が抱えている問題、長期的に日本はどこに向かうべきなのかといったことを理解しているインナーから会長が選出されるのが通例でした。税調会長は、消費税導入のような大きな責任を伴う決断をしなければならず、インナー外からポンと持ってきた人が務まるほど甘くはありません。

高市総理の税調人事の「狙い」と「盲点」

 高市総理は、自らが掲げる積極財政を推し進めるために、「財務省の出先砦」を潰しにきたということでしょう。ただ、新人事でインナー出身ではない小野寺五典氏を会長に任命したことは、高市総理の人選ミスだとする指摘もあります。

 政調会長の経験がある小野寺氏は財務省と非常に親しく、“ラスボス”と呼ばれた宮澤洋一・自民党税制調査会長とも協力して動いていたとされます。財務省のために小野寺氏が動く局面もあったと言われ、高市総理はそういうことを知らずに任命したのではないかと見る向きがあるのです。

 そして、小野寺氏の上位にいる新・政調会長の小林鷹之氏は元財務官僚です。その上にいる鈴木俊一幹事長は完全に親・財務省で、今回の人事に深く介入しているとされる麻生太郎氏も7~8年財務大臣を務めています。

 つまり、高市総理が言うような「どんどん国債を発行すれば良い」という政策がいかに危険かということをよく理解している人物たちが脇を固めているのです。国債を大量発行することによって供給過剰になり、マーケットで国債の価格が下がると金利が上昇せざるを得ない。そうなった時、何が起きるのかという危機感を持っている面々が周囲を固めているので、何でも高市総理の好きにできるわけではないのです。

 もし高市総理が消費減税など、極端な財政出動を実施しようとすれば、小野寺氏・小林鷹之氏・麻生氏・鈴木氏の4人で押さえ込むのではないでしょうか。

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