党税調人事にテコ入れも周りは“敵”だらけ? 高市総理の「積極財政」推進に立ちはだかる「2つの壁」

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「ひらかれた税制」は副作用も大きい

 ただ、補正予算と来年度予算で、効果的な物価高対策を打ち出せないと、支持層の期待を裏切ることになり、短命政権に終わる可能性があることは、高市総理自身がよく分かっているはずです。

 いまの自民党は少数与党です。財務省解体デモなどが起こり、野党は減税など無責任にポピュリズム的な政策を掲げています。そうした野党の要求を、部分的に飲む場面も出てくることが予想されますが、税制で彼らをリードしつつ交渉をまとめてきた手練れが、今の党税調にはもういません。森山裕氏もインナーを辞退してしまいましたから、これからは難しい舵取りになると思います。

 高市総理は「スタイルそのものをガラッと変えたい」と、党税調をもっと国民に開かれた組織にしようとしています。あらゆる情報を集め、利害を調整し、最終的には密室で決めてしまう税調のやり方を変えたがっているのでしょう。

 しかし、税の話はオープンにしすぎると前に進まないのもまた事実です。業界の利害などが目に見える形で出てきてしまうと、収拾がつかなくなるのではないでしょうか。

 ましてや、SNSの発達した昨今では、国民が減税を望んでいる中、議論の中で誰が減税に反対したのかが見えると、「あいつを選挙で落とせ」という話になり、真っ当な議論ができなくなります。

 国民が経済的に苦しい時に、「出費を抑えよう」と主張する政治家が選挙で勝てるわけがありません。独裁国家ならいざ知れず、日本の政治家は国民の声を無視できず、国民に希望を与えなければなりません。しかし、それが行き過ぎるとポピュリズムになってしまいます。

日本の財政運営の根幹が大きく揺らぐ可能性も

 本来なら、毎年の予算編成の在り方が適切かどうか、きちんと検証することが必要です。OECD諸国では、専門家を揃えた第三者的な組織(独立財政機関=IFI)が権限を持っていて、「今年の予算編成はポピュリズムに走っていなかったか」「無駄なことをやってないか」「財政規模は適切だったのか」「限られた産業界の言い分ばかり取り入れてないか」といったことをチェックする制度を持っています。

 1990年代はわずか5か国ほどでしたが、現在は効果が認められて米国、カナダ、フランス、アイルランドなど制度を持つ国は25か国以上に増えています。

 しかし、日本にはそうした制度がありません。外国に倣い日本でも独立財政機関を設置すべきと主張する専門家や学者もいますが、自民党も財務省も、そんな口やかましい組織ができてほしいはずがなく、実際にそのような動きが起きれば猛反対して潰すでしょう。

 高市総理が「経済あっての財政だ」と主張し、アベノミクス路線への回帰を志向する一方で、日銀は金利正常化に向けて舵を切り始めています。この状況下で、財政規律を軽視した政策運営を行えば、利払い費の急増、財政悪化、国債価格の暴落や格下げ、日本銀行の信認低下という形で財政の持続可能性が問われることになります。

 人口減少が進み、先細り感の強い現代社会で、鬱屈とした感情を持っている国民に夢をばらまき、明るい将来を作っていくという意気込みは良いのですが、何もまだ具体化していないのが現状です。

 高市総理の周囲を固める小野寺氏、小林鷹之氏、麻生氏、鈴木氏という財務省寄りの人物たちが、総理の暴走を抑え込む役割を果たすのか、それとも高市総理が自分の意向に沿う松島みどり氏のような人物をインナーとして送り込んだりして党税調を掌握するのか。

 今後の展開次第では、日本の財政運営の根幹が大きく揺らぐ可能性があります。日本の財政の将来を左右する重要な局面として、今後も注視していく必要があるでしょう。

木代泰之(きしろ・やすゆき)
1946年生まれ。経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油エネルギー、証券業界などを取材。著書に『自民党税制調査会』(東洋経済新報社)など。

デイリー新潮編集部

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