「韓国基地から中国を攻撃」で“台湾有事は日本の問題”ととぼけていた韓国人は真っ青に 在韓米軍司令官の宣言が突きつけた踏み絵
「烏山」は強力な対中威嚇カード
――韓国にすればブランソン構想は朗報ですね。
鈴置:痛し痒しです。確かに「見捨てられ」は避けられます。しかしブランソン構想によれば、韓国が中国やロシアへの攻撃拠点になるのです。韓国がこれを認めれば、台湾有事が発生する前から米中二股外交が崩壊します。ブランソン司令官は具体的な中国攻撃のための発進基地にも言及しているのです。
・中国政府からすれば、[キャンプ・ハンフリーと同じ平沢(ピョンテク)市にある]烏山(オサン)空軍基地などに駐留する米軍は遠方の脅威ではなく、中国の内外に影響を及ぼす身近な能力に映る。
烏山空軍基地から戦闘爆撃機が飛び立てば、北京まで1時間もかかりません。海上自衛隊のある提督は「烏山基地が存在するだけで人民解放軍は大きな負担を強いられる。この基地から飛んでくる米軍機への対処法を常に検討せざるを得ないからだ」と、昔から烏山基地の戦略性の高さを語っていました。
ところが米中対立が激化するにつれ、韓国の歴代政権は――ことに左派政権は有事の際にも北朝鮮以外の敵に在韓米軍を投入することに反対の姿勢を打ち出しました。米軍からすれば、中国を圧迫する烏山カードを無効化されそうになったのです。
それだけではありません。台湾有事の際に在韓米陸軍をグアムなどに派遣して中国を牽制するのさえ韓国は嫌がるようになりました。 中国の圧力からです。そこで米国は韓国に対し、「同盟の現代化」と称して在韓米軍の自由な運用――戦略的柔軟性への了解を繰り返し求めてきました。
「同盟の現代化」を呑ませたトランプ
結局、10月29日、韓国・慶州(キョンジュ)での米韓首脳会談でD・トランプ(Donald Trump)大統領は李在明(イ・ジェミョン)大統領に「同盟の現代化」を呑ませました。
その合意事項がファクト・シート「Joint Fact Sheet on President J. Donald Trump’s Meeting with President Lee Jae Myung」という形で11月13日に発表されました(韓国側の発表は11月14日)。関連部分は以下です。
・The United States and the ROK will enhance U.S. conventional deterrence posture against all regional threats to the Alliance, including the DPRK. The two sides affirm relevant understandings since 2006.
「米国と韓国は、北朝鮮を含む同盟に対するあらゆる地域の脅威に対し、米国の通常兵器による抑止態勢を強化する」。つまり米国は「あらゆる脅威」に対し、堂々と軍事力を行使できるようになったのです。
ただ韓国側も若干は抵抗したようで「2006年以来の関連する了解を確認する」との文言もついています。「了解」とは同年、米韓が戦略的柔軟性に合意した際、「韓国国民の意思と関係なく北東アジアの地域紛争に介入することはない」と付言したことを指すのでしょう――韓国側の理解では。
韓国も中国から報復攻撃
――左派は在韓米軍司令官の発言に反発した?
鈴置:ハンギョレが直ちに社説で批判しました。「韓国に対中・対ロ前哨基地の役割を求める在韓米軍司令官」(11月18日、日本語版)です。ポイントを拾います。
・ブランソン在韓米軍司令官が17日、中国とロシアの脅威への対抗における朝鮮半島の地政学的重要性を強調し、(韓国に)事実上米国の覇権維持のための「前哨基地」になることを求めた。
・ブランソン司令官は「軍事的効率性」だけを掲げて同盟国に無理な役割を押し付けようとする言動をやめ、韓米の政治指導者たちが下す決定を後押しする本来の役割に忠実であることを望む。
・ブランソン司令官の提言が現実化すれば、朝鮮半島は在韓米軍の「発進基地」に転落し、中ロの報復攻撃に耐えなければならない。韓国軍の活動範囲も南シナ海まで一気に拡大される。
・このような話はブランソン司令官にとっては斬新な「戦略的提案」かもしれないが、我々にとっては生死にかかわる問題だ。あえて地図を逆さまにしなくても、朝鮮半島はあまりにも戦略的に敏感な地域であるため、韓国人としては慎重にならざるを得ない。
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