「娘の遺体は顎が外れ、指先はミイラ化して…」 裁判員裁判で「刺激証拠」が排除されている! 遺族が語る無念
「体中がどす黒く変色し、虫も這っていた」
裁判員裁判では今、被害者の遺体や血痕が付着した現場の写真など、刺激の強い証拠(以下、刺激証拠)が排除される傾向が強まっている。その代わりの証拠として法廷に提出されるイラストとの落差に失望し、司法判断の信ぴょう性に疑問を呈する遺族は少なくない。
14年5月、東京・池袋の路上で佐藤直樹さん(34)=当時=は男3人に拉致され、車中で約4時間も暴行を受けて死亡した。遺体は山林に遺棄された。葬儀社を経営する佐藤さんの弟(42)は仕事柄、遺体に接する機会が多かったが、それでも兄の最期の姿には絶句した。
「警察署に遺体を引き取りに行ったのですが、体中があざだらけでどす黒くなっていて、2日ぐらい遺棄されていたから虫も這っている。見たことのないひどさでした。何時間も暴行され続けているわけですから、どうみても殺人ですよね。今でもそう思います」
しかし、犯人3人が起訴された時の罪名は殺人ではなく、傷害致死だった。第一審東京地裁で裁判員裁判が始まり、佐藤さんには約50カ所の打撲傷や8カ所の肋骨骨折などがあったが、遺体の写真は証拠採用されず、やはりイラストだった。事件直後の遺体そのものを目の当たりにしていただけに、弟はそのギャップに驚いた。
「兄の最期がどういう状況だったのか、どれほどの危害を加えられていたのかは、言葉やイラストでいくら説明されるよりも、写真1枚だけで十二分に伝わると思うんです。凄惨な事件は裁判員裁判の対象から外した方がいいのではないか」
法廷で排除される刺激証拠は写真だけにとどまらない。犯行に使われた凶器や現場の映像、さらには音声も同様とみなされ、現行の裁判員裁判では証拠として採用されにくい。いずれも真相解明に必要な、動かぬ「客観証拠」であるにもかかわらずだ。その端緒は、今から10年以上前に起きた国家賠償請求訴訟にさかのぼる。
「市民感覚」を反映
13年5月に福島地裁郡山支部で行われた強盗殺人事件の裁判員裁判で、死刑判決に関わった女性裁判員が現場の写真などを見せられて急性ストレス障害になったと訴え、国賠訴訟を起こした。最高裁で棄却となったが、判決では、裁判員を務めたこととストレス障害の因果関係は認められた。
この流れを受け、東京地裁は同年7月、裁判員選任手続の際、遺体の写真など刺激が強い証拠を扱う場合は予告する運用をスタートさせた。最高裁もこの取り組みを全国の地裁に通知し、裁判員の心の負担に配慮する方針が強まった。裁判官だけが審理をする時代には考えられなかった対応で、「司法に市民感覚を」という名の下に09年5月に導入された裁判員制度によって、証拠の取り扱いについても遺体や現場の写真などに耐性の弱い「市民感覚」が反映されたのだ。
こうした裁判所の方針に苦言を呈する声が、遺族からだけではなく、法曹界にも今、広がっている。
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