結局「おあずけ」でがっかり…韓国の原潜計画 合意文書の“誤訳”に見る李在明の苦しい現実
「要注意国」に指定
――結局、米国は韓国に原潜を作らせたくないということですか。
鈴置:政府部内に異論が残る、ということかと思います。今年3月14日、米政府が韓国を安全保障などの政策上、特に注意が必要な「sensitive country(要注意国)」に指定したことが明らかになりました。核武装に動く可能性があるとの判断からと見られます。
米エネルギー省は指定国家との協力や訪問には「事前の検討」を要すると規定しています。要注意国には中国や北朝鮮、ロシア、イランなどが含まれます。韓国も仮想敵国並みの扱いとなったのです。
この指定はJ・バイデン(Joe Biden)政権の置き土産でしたが、トランプ政権になっても米国の行政府には韓国への懸念が色濃く残っているのでしょう。
「トランプから『原潜保有』を許された韓国 宿願だが…浮かれていられない“2つの障害”」で詳述したように、トランプ大統領は中国との対決に韓国の造船能力を活用すべきだと考えて原潜の建造保有にOKを出した。
しかし、エネルギー省や国防総省(戦争省)などが反対して原潜の韓国建造やウラン濃縮に歯止めをかけた――というあたりが真相ではないかと思われます。
そもそも代替案として出してきた米国建造案だって、実現可能性に疑問符を付ける専門家も多いのです。商船建造が専門のフィリー造船所には潜水艦用のドックも、原子炉など機密を隠す施設もない。これらを建設するだけで数年は必要だからです。
竣工は同盟消滅後だから問題なし
――では、韓国はどうする?
鈴置:TV朝鮮が興味深いニュースを報じました。韓国政府内で語られている強引極まりない原潜国産化案です。
朝鮮日報「原潜建造を巡り韓国政府は『韓米原子力協定の改訂不要』『米国内で建造の条件なし』と認識【独自】」(11月7日、日本語版)で読めます。
なかなかダイナミックな議論で①まず、米国とは一切関係なく韓国内で原子炉を含め原潜を造ってしまう②1番艦の完成は2035年頃になる③現在の韓米原子力協定は2035年まで有効だ④それ以降は自由にウラン濃縮が可能になるになるので1番艦の燃料は国産化すればいい――です。
現在、韓国は米国からウランを供給してもらっている。それゆえに濃縮などで米国から制約を課されている。つまり、この原潜国産化案は、2035年以降は米国以外の国からウランの供給を受ける――が前提となっているのです。
いったいどの国を想定しているのでしょうか。中国、ロシアを想定しているのかもしれません。しかし、中露は見返りに米国との同盟は打ち切って自分と結べ、と言い出すでしょう。
北朝鮮もウラン鉱山を持っています。北からウランを貰うとなると、その時、南北の関係はどうなっているのでしょうか。いずれにせよ、米韓同盟の破棄が必要条件です。
「原潜」が躓きの石
――韓国の左翼は10年後には米韓同盟は消滅している、と考えているのですね。
鈴置:2018年に『米韓同盟消滅』という本を書いて米韓同盟のもろさに警鐘を鳴らしたのですが、なかなか信じて貰えませんでした。まだ日本には、冷戦時代の常識で世界を見ている人が多いのです。
米韓同盟は日米同盟と比べ、極めて脆弱です。何しろ共通の敵が無いのですから。米国は中国を主要敵に定めました。しかし、韓国は絶対に中国を敵に回しません。
トランプ大統領にとって金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記はお友達。一方、北朝鮮は2024年10月、憲法を改定して韓国を敵対国と規定しました。左派政権であってもそれは変わりません。
共通の敵のない同盟は極めてもろい。ちょっとしたことで米韓同盟は崩壊します。原潜――核武装問題が「躓きの石」となるかもしれません。
韓国は核武装した北朝鮮と向き合う以上、独自の核を持ちたい。そのうえ米中対立が激化し、韓国の二股外交は限界に来ている。米国から見捨てられ、中国には脅しあげられる――。
韓国人が核武装中立を選択したくなるのも無理はない。しかし、米国は韓国を信用できない国と見ていますから、核武装は容易に許さない。米韓の葛藤は根深く「原潜」をきっかけに同盟が崩壊していく可能性も大いにあるのです。
底の浅い民主主義
――中国が台湾への侵攻を企図しているのに、阻止しようと考えないのでしょうか、韓国人は。
鈴置:考えません。もともと朝鮮半島の歴代王朝は中国大陸の歴代王朝の属国でした。「中国には従う」のが当たり前なのです。
――でも、中国は民主主義国家ではありません。そんな国の勢力圏で生きていけるのですか?
鈴置:韓国は民主主義国家を自称しますが、その根は浅い。民主主義に必要な法治意識に乏しいのです(『韓国消滅』第2章「形だけの民主主義を誇る」参照)。そんな「にわか民主主義」の人たちは、我々から見ればとんでもない「中国的な世界」に対しても別段、違和感を持ちません。
韓国人の現在の心情を描いたのが『韓国消滅』です。是非、お読みください。韓国の民主主義の底の浅さに驚くと思います。
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