結局「おあずけ」でがっかり…韓国の原潜計画 合意文書の“誤訳”に見る李在明の苦しい現実

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あえて誤訳か

――垂直発射管のない攻撃型原潜から核ミサイルは撃てない?

鈴置:巡航ミサイルに核弾頭を載せ、魚雷発射管から撃つ手があります。ただ、この方式だと、撃てる巡航ミサイルの数が魚雷発射管の数に限られてしまうし、魚雷も使えなくなる。そこで最近は魚雷発射管ではなく、ミサイル原潜の多数の垂直発射管から撃つのが「はやり」なのだそうです。

 一時期は米国も攻撃型原潜に核弾頭を載せた巡航ミサイルを搭載し、魚雷発射管から撃つ方式も採用していましたが、次第にやめています。

 韓国は垂直発射管を装備したディーゼル潜水艦の運用を始めており、ここから弾道ミサイルを撃つ計画です。さらにはディーゼルエンジンを原子炉に取り替えミサイル原潜を建造する方針でした。巡航ミサイルしか撃てない攻撃型原潜の保有を許可してもらっても、さほど嬉しくはないのです。

――「ミサイル原潜はダメ」と言われたら保守もガックリですね。

鈴置:そう思います。保守も核武装したいのは同じです。それ以上に交渉の責任者たる李在明政権はショックでしょう。「原潜を持ってもいいが米国建造のうえ、攻撃型だけだぞ」とタガを嵌められたのですから。核の先制攻撃を受けても報復できる「第2撃能力」には歯止めをかけられたのも同然……。

――つまり「核武装はさせないぞ」と言われたわけですね。

鈴置:だから、ファクトシートであえて誤訳したのでしょう。外交交渉の最後に文書化する時は英文で詰めるのが普通です。韓国の交渉者は米国側の「原子力駆動の攻撃型潜水艦(nuclear-powered attack submarines)」との表現を拒みきれなかった。そこで責任を回避するため韓国語版からは「攻撃型」の文言を落としたと思われます。

「日本並み」も先送り

鈴置:李在明政権の交渉上の挫折はもう一つあります。「日本並み」の権限を求めたウランの濃縮と使用済み核燃料の再処理です。いずれも平和的利用に限った権限ですが、それに違反して転用すれば濃縮ウランなどは核兵器の素材になります。このため韓国人は「日本は潜在的核保有国だ」とうらやんできました。

 そんな韓国の度重なる要求に、米国は応じなかった。韓国は何度も核武装に乗り出したうえ、IAEA(国際原子力機関)に隠れてウラン濃縮を実施するなど信用できる国ではないからです。
 
 ところが最近、韓国メディアは「首脳会談を含む米韓の一連の交渉を受け、米国は前向きに応じる」と報じ始めました。しかし、今回発表されたファクトシートでは「米国の法的要件を遵守する範囲内で韓国の平和的利用のための民間ウラン濃縮および使用後の核燃料再処理に帰結する手続きを支持する」との表現に留まりました。

「米国の法的要件の範囲内で」ですから、米国が拒否権を持つのと同じです。魏聖洛室長は11月14日「大きな枠組みは合意できた」と語りながらも「既存の[韓米原子力]協定の調整など今後、多くの協議が必要だ」と目標達成にはほど遠いことを認めざるをえませんでした。

 朝鮮日報の「大統領室、『原潜は大枠で合意…後は多くの協議が必要』」(1月14日、韓国語版)が魏聖洛室長の発言を紹介しています。

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