結局「おあずけ」でがっかり…韓国の原潜計画 合意文書の“誤訳”に見る李在明の苦しい現実
「核武装中立」を夢見る左派
――李在明政権は米国建造の何が嫌なのでしょうか。
鈴置:原子力を巡る米国の安全保障の枠組みに組み込まれてしまうのが嫌なのです。ニューヨーク・タイムズは「Can South Korea Manage the Competing Needs of the U.S. and China?」(11月1日)で、米国建造により「韓国が米国の安保体系にさらに取り込まれる」と評しました。そして、見出しにあるように「韓国は厳しくなる一方の米中間の板挟みに耐えうるのか」と、首を傾げたのです。
「フィラデルフィアの造船所」とは韓国財閥、ハンファグループが昨年末に買収した「Hanwha Philly Shipyard」(フィリー造船所)です。
韓国資本の造船所とはいえ米国で造るとなれば、潜水艦用の原子炉は韓国製でなく米国製のお下げ渡しになります。韓国からすれば完全なブラックボックスであり、かつ、米政府の厳しい規制の対象です。それではいつまでたっても「原潜主権」は得られません。
李在明政権の原潜保有は核武装の下準備です。自前の原潜を持てば、米中いずれからも距離を置く「核武装中立」に踏み出せます。だから李在明大統領はトランプ大統領に対し「原潜も原子炉も韓国で造るから核燃料だけ供給して欲しい」と要求したのです(「トランプから『原潜保有』を許された韓国 宿願だが…浮かれていられない“2つの障害”」参照)。
英国はそうですし、豪州も日本も多分そうなるのでしょうが、核ミサイル原潜を持っても――核保有国になっても米国との同盟は維持するでしょう。しかし、韓国の左翼政権はそうは考えないのです。
スマホが欲しいのにガラケー
――では、保守派なら米国建造を支持しますか?
鈴置:基本的にはそうです。米国との同盟を維持したうえ、原潜も持てるのですから大歓迎でしょう。10月29日の首脳会談以降、11月14日にファクトシートが発表されるまで、韓国では原潜建造を巡り、侃侃諤諤の議論が交わされました。保守の中には「米国建造でもいいじゃないか」といったニュアンスの主張がありました。
ただ、そんな人もホワイトハウスが発表したファクトシートを読んだら、反対に回るかもしれません。
――米国版と韓国版で異なるのですか?
鈴置:私が見た限り、1カ所ありました。先ほど引用した部分のすぐ前のくだりです。
・The United States has given approval for the ROK to build nuclear-powered attack submarines.
米国が韓国に建造を許すのは「原子力駆動の攻撃型潜水艦(nuclear-powered attack submarines)」です。一方、韓国語版では単に「核推進潜水艦」(直訳。日本語に直せば「原子力潜水艦」)。保守も含め韓国人は「核ミサイル原潜」を持つつもりなのに、米国は垂直発射管を持たない「攻撃型」に限定したのです。
米韓首脳会談で李在明大統領が原潜建造を訴えた際、理由を「わたしたちは核兵器を搭載した潜水艦を造るつもりはない。[速力の遅い]ディーゼル型だと中国や北朝鮮の[原子力駆動の]潜水艦の追跡活動に限界がある」と説明しました。
米国はその言葉を捕え「だったら、攻撃型原潜でいいじゃないか」と言い渡したのです。垂直発射管を備え、核弾頭を載せた弾道ミサイルを撃てる「核ミサイル原潜」を持たないと、核報復能力は限定的で核武装の意味は大きく減じます。
韓国とすれば、ゲームがしたいのでスマホが欲しかったのに、ガラケーを与えられた感じです。
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