お先真っ暗な「洋上風力発電」 三菱商事撤退で経産省はパニックに
3海域で洋上風力発電事業を落札した三菱商事の撤退は、エネルギー業界に大きな波紋を広げている。事業環境の変化による採算悪化は他社も同じだからだ。地球温暖化対策という追い風を受けて進められてきた再生可能エネルギー事業は、大きな岐路に立っている。【井伊重之/経済ジャーナリスト】
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政府を挙げて導入を進めてきた再生可能エネルギーに猛烈な逆風が吹いている。温室効果ガスの排出削減と新規産業の育成という一石二鳥を狙い、経済産業省を中心に政府は再生エネの拡大を目指している。だが、「再生エネの切り札」と期待されていた洋上風力発電を巡り、秋田県沖や千葉県沖で政府が公募した事業を落札した三菱商事が一転、建設費高騰による採算の悪化を理由に撤退を決めたのだ。
想定外の事態を受け、洋上風力の普及に向けて音頭を取ってきた経産省も慌てて善後策の検討に乗り出している。折しも自民党総裁選では再生エネ推進を掲げた小泉進次郎前農水相が敗れ、再生エネの見直しを訴えた高市早苗元経済安保相が勝利を収めた。高市政権が誕生したことで、政府の再生エネ戦略は抜本的な再考が避けられない。
「誠に残念で遺憾というほかない。県内中小企業の中には、背伸びをして設備投資してきた会社も多い。そうした企業に対する社会的・道義的な責任を果たしていただきたい」
秋田県の鈴木健太知事は8月29日、秋田県庁で面会した三菱商事の中西勝也社長に厳しい表情でこう迫った。同社はその2日前、秋田県沖などで計画していた洋上風力からの撤退を発表し、中西社長は鈴木知事に直接謝罪するために県庁を訪問した。中西社長は「秋田の皆様のご期待に添えず、申し訳ありませんでした」と平謝りだった。
地元の期待に冷や水
同社が撤退を決めたのは、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖と同県由利本荘市沖、それに千葉県銚子市沖の3海域で予定されていた大規模な洋上風力発電事業だ。同海域で洋上風力向けに30年にわたって利用する権利を入札で取得し、2028年から発電を順次始め、最終的に計170万キロワットを発電する計画だった。日本初の本格的な洋上風力として産業界や自治体関係者の注目度も高かった。
沖合の大型風車を海風で回して発電し、その電力を海底に敷設した送電線を通じて陸地に送る洋上風力は、陸上風力に比べて構成部品が数万点と格段に多い。常に強い風や荒波にさらされるため、定期的なメンテナンスも不可欠だ。洋上風力に近い港には作業支援船の基地が整備され、港の周辺では部品の加工工場や倉庫などサプライチェーン(供給網)の進出も想定される。雇用創出を含めて地域経済への波及効果は大きく、洋上風力の対象地域では期待が高まっていたが、三菱商事の撤退はそうした地元の期待に冷や水を浴びせた。
秋田県が県内企業を対象に緊急調査したところ、今回の撤退で「影響がある」と回答した企業は72社に上った。このうち12社は、すでに洋上風力に関する先行投資を始めており、その規模は数十億円に達するという。目算が狂った地元企業からは「日本を代表する大手企業が採算難を理由に、国家的なプロジェクトから撤退する。そんな自分勝手が許されるのか」と憤りの声が上がっている。経産省はこの撤退を受け、再公募を早期に実施する方針だが、それは地元企業に与える打撃をなるべく小さくする狙いもある。
三菱商事の撤退に伴い、同社が政府に保証金として拠出していた200億円は国庫に没収される。秋田や千葉の地元からは「事業撤退の影響を軽減するため、地域振興のために保証金を活用してほしい」との要望も出ている。これに対し、経産省関係者は「公募時の規定で撤退した場合には保証金は国庫に没収されると決められている。ただ、三菱商事には地域支援のために一定の負担を求める」としており、同社はさらなる資金負担を強いられることになりそうだ。
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