お先真っ暗な「洋上風力発電」 三菱商事撤退で経産省はパニックに

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価格破壊で「総取り」

 三菱商事と中部電力子会社を中心とする企業連合が、国内初の大規模洋上風力として政府が公募した秋田県沖や千葉県沖の3海域すべてを落札したのは21年12月だった。同社以外にも住友商事や東京電力、東北電力、九州電力子会社など国内大手がこぞって企業連合を組んで入札に参加したが、そこで三菱商事連合は圧倒的な差を見せつけ、他社に勝利した。

 この入札では、洋上風力で発電する電力をいかに安く販売できるかが最大の焦点となった。そこで三菱商事連合は、3海域をすべて落札することを前提に、大型風車などの資材を海外から大量調達することで売電価格の大幅な引き下げを計画。その結果、同社連合は政府が示した上限価格の半分、2位グループより3割以上も安い価格を提示し、3海域の「総取り」に成功した。他社陣営は三菱商事連合の入札価格を見て「あんな安値には太刀打ちできない。価格破壊が起きた」と強い衝撃を受けた。

 しかし、その破格の安値が三菱商事自身の首を絞めることになった。同社の落札後、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、燃料をはじめとした資源価格の高騰で世界的にインフレが広がった。洋上風力の資材価格は円安進行も加わって大きく値上がりした。さらに新型コロナ禍後の人手不足で建設費用も大幅な上昇を記録し、同社の事業計画に大きな狂いが生じた。

 中西社長は8月末に事業撤退を発表した記者会見で、「建設資材の想定外の高騰でコストが2倍以上に膨らんだ。損益がマイナスとなる事業を続けることはできない」などと釈明したが、同社の見通しも甘かったのは否めない。

コスト高を招いた要因

 主要各国が温室効果ガスの排出削減を迫られた2010年代半ば以降、世界の洋上風力市場は急激な成長を遂げた。欧米の洋上風力会社各社が大型風車を競って導入したことで、発電コストは大幅に下がっていた。三菱商事はそうした傾向が今後も継続すると予想し、他社を驚かせるような安値で落札したのだった。

 しかし、業界関係者は「洋上風力の風向きが変わり、事業環境が悪化していることは、1年以上前に分かっていたはずだ」と指摘する。

 洋上風力で先行する欧州では、すでに23年から24年にかけ、英国やデンマークなどで六つの洋上風力事業がコスト増などを理由に相次いで計画中止や撤退に追い込まれている。デンマークは電源に占める再生エネ比率が8割に上る「再生エネ大国」として知られ、洋上風力も普及しているが、同国が誇る世界最大の洋上風力会社、オーステッドでさえ大規模な人員削減を迫られるなど、採算の悪化に直面している。

 特に欧米に比べて再生エネの普及が遅れている日本の場合、洋上風力で使用する最重要部材の大型風車については、すでに三菱重工業や日立製作所などの国産メーカーが撤退し、世界ではデンマークのベスタスとドイツのシーメンス系、米国のGEベルノバの大手3社が高いシェアを握っている。このため、日本企業はそうした大型風車を高い価格で海外企業から購入せざるを得ない状況にある。これもコスト高を招いた大きな要因である。

 そもそも日本を取り巻く自然環境は、洋上風力に適しているとはいえない。欧州と比べて偏西風が年中吹いてはおらず、「風況」が良い地点が日本海側の一部に限られる。また、遠浅の海域が広がる欧州とは異なり、日本では陸地からすぐ水深が深い海となるケースがほとんどだ。このため、現在進められている海底に風車の支柱を立てる着床式に加え、今後は海に風車を浮かべる浮体式も大量導入する必要がある。本格的な浮体式はまだ実験段階だが、そのコストはかなり割高となるため、採算の確保は一段と困難になる。

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