お先真っ暗な「洋上風力発電」 三菱商事撤退で経産省はパニックに
撤退ドミノ
経産省がいま、最も恐れているのは「撤退ドミノ」である。
政府は三菱商事連合が落札した第1弾の後、第2弾と第3弾の入札も実施済みだ。第2弾では23年から24年にかけ、ENEOS系や東北電力などの企業連合が秋田県八峰町・能代市沖、JERAや伊藤忠商事、Jパワーなどが秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、そして三井物産や大阪ガスなどが新潟県村上市・胎内市沖を落札。さらに昨年12月には第3弾として、JERAや東北電力などが青森県沖、丸紅、関西電力などの連合が山形県遊佐町沖をそれぞれ落札している。これらの連合も採算の悪化という同じ事情を抱えており、三菱商事に続いて相次いで撤退すれば、同省が中心となって進めてきた再生エネ戦略も「絵に描いた餅」に終わりかねない。
このため、同省は洋上風力に対する追加支援の検討に乗り出し、洋上風力の海域利用期間を30年から40~50年に延長する方向で調整中だ。利用できる期間が延びれば、それだけ大型風車などの発電設備を長期に稼働でき、売電収入も長く得られるようになる。
さらに同省は、税負担の軽減拡大も模索している。現行では太陽光や洋上風力など再生エネの発電設備に対し、25年度末までに稼働した設備を対象に固定資産税を3年間減額する制度がある。洋上風力は建設が遅れているため、稼働開始時期の条件を31年度末まで延長する方針だ。来年度の税制改正に向けて財務省と協議に入っている。
それでも落札企業にとって採算の悪化は避けられない情勢にある。第2、第3弾の入札は最初からFIP制度の下で実施されたが、三菱商事の落札結果が影響し、補助金を受け取らない「ゼロプレミアム」とされる安値で落札しているためだ。三菱商事は3海域すべてを落札し、赤字も大きく膨らむと見込んだが、第2弾以降の入札では落札した企業連合が分散しており、赤字額はそこまで拡大しない見通しだという。それでも事業に参加する大手商社関係者は「政府の支援で何とか赤字だけは避けたい」と漏らす。
経産省幹部は「再生エネの導入による国民負担を軽減するため、洋上風力の第1弾入札では価格の安さを優先した。だが、それが事業者の採算を悪化させる要因になった。今後の洋上風力の入札は事業の安定性を含め、総合的な評価が必要になる」と語る。
再生エネ戦略を見直せ
ただ、再生エネの導入拡大で、国民負担は確実に増えている。再生エネによる電力はFIT制度により、最終的には賦課金として国民が支払う電気料金に上乗せされるためだ。25年度の標準家庭(月使用量400キロワット時)の賦課金は月額で約1600円、年間で2万円近くに達する。政府は物価高対策で電気・ガス代を補助してきたが、その一方で賦課金は増加傾向にある。現在の賦課金は太陽光や陸上風力の電力買い取りのために発生しているが、これに洋上風力も加われば、さらに国民負担は増す。このため、国民民主党はFIT賦課金の中断を政府に求めている。
これまでの政府のエネルギー政策は、温室効果ガスの排出削減に向け、再生エネの導入に重点が置かれてきた。だが、総合的なエネルギー政策を打ち出すには、地球環境だけでなく、安定供給や経済性なども考慮し、多様な電源を組み合わせる必要がある。特に最近では大規模な陸上風力や太陽光発電(メガソーラー)を巡り、地域住民とのあつれきも高まっている。推進一辺倒で取り組んできた再生エネ戦略について、新政権には国民負担のあり方を含め、一度立ち止まって冷静に考えてもらいたい。
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