お先真っ暗な「洋上風力発電」 三菱商事撤退で経産省はパニックに

ビジネス

  • ブックマーク

バラ色の将来像を描いてきたが……

 三菱商事の撤退で慌てたのが経産省である。同省は洋上風力を次世代の再生エネと位置付け、2030年代に大幅に拡大するというバラ色の将来像を描いてきた。政府が今年に入って閣議決定したエネルギー基本計画では、再生エネが電源全体に占める比率を、23年度の約2割から40年度には4~5割へと2倍程度に高める目標を打ち出した。温室効果ガスを排出する化石燃料を使う火力発電の比率を足元の約7割から大幅に引き下げ、再生エネを主力電源として活用する方針を明確にした。そこでは風力発電も現在の1.1%から同年度には4~8%にまで引き上げることを目指している。そのけん引役と期待しているのが洋上風力だった。

 それだけに経産省としては、鳴り物入りで実施した洋上風力の第1弾公募の落札企業が撤退する事態だけは避けたかった。今年2月に三菱商事は「洋上風力事業の採算が悪化している」として500億円超の大幅な減損を計上し、ゼロベースで事業の再評価を実施する考えを表明した。同社が事業から撤退する可能性を示唆したことに危機感を募らせた同省は、落札条件を急きょ見直し、当初適用した「固定価格買い取り(FIT)」から、市場連動で売電価格を決定できる「FIP」への転換を認めた。

大株主も影響

 FITとは電力会社が一定期間にわたり、決まった価格で電力を強制的に買い取る仕組みだ。これに対してFIPは、市場に連動させて一定の補助額を上乗せした売電価格を設定でき、需要家との交渉次第で価格の引き上げも可能となる。政府公募で一度落札された事業の条件を事後に変更するのは極めて異例だが、経産省としてはどうしても三菱商事に撤退を思いとどまらせるため、FITからFIPへの転換を容認した。それでも同社は最終的に採算を確保するのは難しいと判断し、国や地方の期待を裏切る形で撤退という非情な決断を下した。

 同社がここまで洋上風力の採算に固執したのは、投資の神様と呼ばれる米著名投資家、ウォーレン・バフェット氏の存在も影響している。同氏が率いる投資会社のバークシャー・ハサウェイの子会社が新たな投資先として日本の大手商社に注目し、その株式を10%前後も購入しているからだ。三菱商事をはじめとした大手商社は、大株主の圧力にさらされる中で株主還元や株価を意識した資本コスト経営を強く求められ、資本効率の向上を最優先事項としている。今回の撤退も、そうした厳格な投資判断の下で決定されたのは間違いないだろう。

次ページ:撤退ドミノ

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。