「財務省の敷いた座布団に座ることになる」 自維連立合意書に滲んだ高市氏の“責任ある積極財政”の真相とは

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 調査によっては70%を超える支持率を示す高市新内閣。「ポスト安倍」の呼び声高い高市氏はその人事や政策に安倍元首相の影響が色濃く残る。しかし、過半数で安定していた安倍政権とは異なり、今や自民党は少数与党だ。加えて、維新との連立や財政政策など新政権の課題は山積み。長らく自民党政治を分析してきた専門家は高市新政権をどう見るのか。東京大学先端科学技術研究センターの牧原出教授に聞いた。

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 今回の総裁選では自民党員が予想以上に保守化していることが明らかになったと思います。ただし、これは日本社会全体の傾向ではないことに留意が必要です。総裁選では高市氏は党員票の4割を押さえましたが、日本社会全体で4割も保守層があるとは思えません。10月中旬に行われた時事通信の世論調査では、政府や党の要職に裏金議員の起用を認めることに賛成したのは10%程度。いわゆる「岩盤保守」はこの国民全体で10%程度だと考えています。

 一方で最新の内閣支持率を見ると、各社60%台後半~70%台と軒並み高水準を示しています。「岩盤保守」は1割程度なのに内閣支持率がここまで高水準を示すのは何故なのか。要因はいくつかあると思いますが、一つは初の女性首相に対する期待感です。「初の女性首相を腐さない」という雰囲気があるのではないかと感じています。

 他にも高市さんがTikTokなどのショート動画でよく見かけるようになり、若い層に身近に感じられているということも関係しているのではないかと思います。ただし、内閣支持率が高水準なのに対して、自民党への支持率は多少持ち直したものの30%台です。現在の高市内閣支持は政策への期待というより、漠然とした期待感によるものだと推察されます。また、「首相になったらもっと中道になるのではないか」という期待も含まれているようです。

 この高支持率が“漠然とした期待感”による以上、長く続くかは疑問です。首班指名選挙において、衆議院では過半数を取れましたが参議院では過半数に届かず決選投票になりました。今後、どの勢力と組んで過半数を取っていくのか、維新以外の野党とのパイプをどのように構築していくのか、安定的に政治を進めていく要素はまだ見えません。

実質的な“大連立”の可能性

 維新との連立に関しても、自公連立のようにがっちりと手を組めているわけではありません。維新がこれまで支持を集めてきたのはその「奇想天外さ」ゆえであって、実現性や有効性には乏しい政策も多い。これは自維連立合意書からも見て取れます。

 例えば、議員定数の削減です。これは1990年代から2000年代の官僚バッシングの延長のような考え方です。人口減少が続くのであれば事務は減るのではないかと思うかもしれませんが、人口が減るとむしろ行政事務が増える。そうした中で、議員数を減らすことは行政をチェックする機能の弱体化につながり、結果的に住民にとって悪い影響を及ぼします。合意書では衆院議員定数を対象としていますが、維新は地方議会での議員定数削減も掲げています。

 特に懸念されるのは、大阪府・市でしてきたことが全国に適用できるとする発想です。大阪府・市は規模の大きい自治体ですから議員定数を削減してもある程度機能しますが、各地の小規模な市町村の議会にまで同じことをすれば全く立ち行かなくなります。

 加えて、自民党内では内閣支持率が高いうちに解散に打って出るべきだという声もありますが、自民大阪府連が反発しているように維新とは選挙協力ができない。こうなると、解散を判断したタイミングで連立解消という可能性もある。自維連立政権と言いつつ各々が別の方を向いており、自公政権のような安定性はとてもではないが望めないのではないでしょうか。

 一方で、注目しているのが社会保障制度を見直す「国民会議」です。高市首相は所信表明で<超党派かつ有識者も交えた国民会議を設置>すると表明しており、これは野党も巻き込む形になります。ここには立憲民主党も公明党も入ってくることが予想されます。社会保障は財政において非常に大きなウェイトを占めます。もしこの「国民会議」での議論が進めば、実質的な“大連立”になる可能性があります。

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