すべては「妻の更年期」から始まった… 55歳夫が肋骨&手首をへし折られ“出家” を考えるほどこじれた末路

  • ブックマーク

そして修羅場に…

 1年後、とうとうマスター自身が気づいたようだった。ふらりと店を訪れると、マスターがカウンターの奥から飛び出してきて、裕治郎さんはいきなり殴られた。止める里恵さんも吹っ飛ばされた。

「とりあえず外に逃げたんですが、あちこち痛くて、そのまま医者に行きました。肋骨と左手首を骨折していました。あとから聞いたら、里恵は頬骨を骨折したらしい」

 さすがにもう会えないと腹をくくった。つい最近、長女が彼にこっそり伝えたところによると、喫茶店は閉店、マスター夫婦は離婚せず、里恵さんの九州にある実家近くへ越したという。

「離婚しなかったということは、これからもマスターにネチネチ言われる可能性があるということですよね。いっそふたりとも離婚して一緒になったほうがよかった。そこまで考えられなかった自分が情けない」

裕治郎さん夫婦のその後

 裕治郎さんも妻とは冷戦状態が続いている。妻はマスター夫婦がどうなったか知っているはずだがなにも言わない。

「週末は月に2回ほど、実家に戻るようになりました。表向きはひとり暮らしの母を見守るためとしていますが、自宅にいづらいので。僕自身は1年後には会社を辞めて実家で暮らすつもりですが、ふとそう洩らしたら、母は『私はまだ元気だよ。定年まではきちんと勤めなさい。無責任なことはするな』と言った。妻と里恵への贖罪のつもりだったし、いずれは出家したいとまで考えていたけど、それも許されないのかもしれません」

 どうしてこんなことになっちゃったかな……。裕治郎さんは力なくそう言った。本当は里恵さんに連絡をとりたいのだろう。中途半端に終わった恋に未練たっぷりなのだ。彼の人生がここで落ち着くとは思えなかった。

 ***

 崩壊した家庭から「実家」へ逃げようとする裕治郎さん。ひょっとすると、彼に生きる指針を示してくれた母のもとに帰り、今後の人生の方向を決めたいという思いもあるのかもしれない。だが「自分自身に何度も裏切られた」と語るこれまでの歩みを振り返ると、果たして……。【記事前編】では、裕治郎さんの生い立ちと、佳菜子さんとのなれそめを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[5/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。