すべては「妻の更年期」から始まった… 55歳夫が肋骨&手首をへし折られ“出家” を考えるほどこじれた末路

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夫婦生活に入った亀裂

 そんなふたりに亀裂のようなものが入ったのは、次女が高校を卒業するころ、裕治郎さんが50代に入ったころだった。佳菜子さんが心身の不調を訴えるようになった。それまでめったに風邪もひかなかった妻が会社を休んで寝ていることもある。精密検査を受けても、特に病気は見つからない。更年期だということでホルモン療法を始めたものの、彼女が本来の生気を取り戻すことはなかった。

「ずっと無理してきたからと最初は僕も慰めていたんですが、彼女はまるで性格が変わったようになってしまった。いっそ入院してみたらと勧めたら『私が邪魔なんでしょ』と言いだして。そんなひねくれた性格じゃなかったのに……。今思えば、僕にとって妻は人生の指針だった。それが急に壊れたので、正しい方向がわからなくなった」

 本来なら、妻を支えるべきだったのに裕治郎さんは自分が「とっちらかって」しまった。大学生の娘たちはふたり力を合わせてがんばっていたが、彼は心の重さに混乱していく。そんな心の弱さに魔物は入り込む。

「結婚前に佳菜子と行っていた例のレトロな喫茶店、結婚後は引っ越したんですが、それでもときどき通っていたんです。そのうち老夫婦は引退、彼らの親戚の若夫婦が仕切るようになった。佳菜子が具合が悪くなったのでひとりで息抜きに行っていたら、マスターに『最近、おひとりなんですね』と言われ、妻のことを話しました。それを聞いていた常連さんに、『いい相談場所がありますよ』と連れて行かれ……。妙な新興宗教に誘われちゃったんですよね。最初はみんなで集まって心のうちを暴露し合って、それなりにストレス解消になっていたんだけど、そのうち変な絵を買わされたりした。そこから助け出してくれたのが、レトロ喫茶店のママでした」

 若夫婦は何かがおかしいと思ったらしい。あるとき裕治郎さんは呼び出され、休日の店内でいろいろ話を聞かれた。絵を買ったことを話したら「やっぱり」と夫婦は顔を見合わせた。

「『あの方はもう店には入れないことにした、他にも勧誘された人がいたので。裕治郎さんの様子がおかしかったので、もしやと思ったんですが……』と。それでようやく僕も目覚めました。申し訳ないと夫婦に頭を下げられましたが、誘いに乗ってしまったのは僕。僕の弱さが招いたことです。勧誘してきた人は、ママの友だちだったらしく、ママはすっかり恐縮していました」

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