すべては「妻の更年期」から始まった… 55歳夫が肋骨&手首をへし折られ“出家” を考えるほどこじれた末路
ママと恋に落ちてしまい…
その後も、ママは彼を気にかけてくれた。たまたまマスターがいないときに店に行ったことがあり、ふたりはいろいろなことを話した。裕治郎さんが心を開いて話せたのは、佳菜子さん以外にはこのママ、里恵さんだけだった。
「僕らは一気に恋に落ちてしまいました。どうしてそういうことになったのか……。里恵はマスターと仲が良かったし、マスターはものすごくいい男でしたからね、同性から見ても。優しくて頼りがいがあって。でも里恵は『あの人は完璧なの。それが息苦しい』って。つきあうようになってから聞いたら、彼女は僕より15歳も年下だった。10歳の子どももいたんですよ。ふたりとも結婚していて子どももいて、パートナーを愛しているのに恋に落ちた。そんなことが自分に起こるなんて、思ってもみなかった」
喫茶店はふたりで経営しているから、ふたりは常に一緒だった。里恵さんと会う時間を捻出するのは大変だったと裕治郎さんは言う。だからこそ燃え上がったのかもしれない。会うのが困難であればあるほど、ただでさえハードルの高い不倫の恋は燃えさかる。
「初めてふたりでホテルに行ったとき、彼女は『私、セックスが嫌いだった。でもこんなにいいものだったなんて』と泣きました。僕も佳菜子とは長い間していなかったと気づいた。佳菜子は言葉で愛情表現はするけど身体の接触はあまり好きではなかったみたいなんです。実はそこに僕は不満があったと気づきました」
互いの体を貪る行為は心を奪うことにもつながった。もう離れられないと会うたびに思う。だがひとつになった体と心を、時間は容赦なく引き裂いていく。結婚している男女が恋に落ちると、夢とうつつを行ったり来たりするような気持ちになり、日常生活に支障をきたしてしまうこともある。
「あの喫茶に行きたい」と妻 里恵さんの反応は…
「それでもお互いに秘密を守りつつ、ふたりの時間だけを楽しみにがんばっていました。2年ほどたったある日、佳菜子が『あのレトロ喫茶、まだやっているのかしらね』と急に言い出したんです。どっと汗が出そうになったけど、『ああ、やってるよ。ごくまれに行ってる』とさりげなく言ったら、私も行きたい、と。佳菜子はなんとか仕事だけは続けていたんですが、そのころはかなり体調がよくなっていたんですね。僕は里恵のことで心がいっぱいだった。佳菜子は僕とのずれてしまった感覚を取り戻そうとしたんでしょう」
僕は行かないとは言えなかった。ふたり揃って、週末に店を訪れた。マスターは満面の笑みで迎えてくれたが、里恵さんは頬がひきつっているように見えた。それでも如才なく、「おかげん、いかがですか」と聞いた声は震えていたと裕治郎さんは言う。
「佳菜子は『ずっと調子が悪かったけど、最近やっと元気が出てきたの。ここに来たら、自分の中からエネルギーがわいてきたような気がする。裕ちゃんにも迷惑かけちゃったし、これからもう一度がんばる。今までごめんね。ずっと愛してるから』と僕に向かって、ふたりの前で宣言したんです。背中を冷たい汗が流れました。もしかしたら佳菜子は何もかも知っているのかもしれない、と。里恵は青ざめていましたね」
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