すべては「妻の更年期」から始まった… 55歳夫が肋骨&手首をへし折られ“出家” を考えるほどこじれた末路
佳菜子さんからの思わぬ質問
佳菜子さんとマスターは楽しそうに話し、裕治郎さんはひたすら冷や汗にまみれ、里恵さんは途中から店の奥に引っ込んでしまった。帰り際、佳菜子さんは「またふたりで来ます」と元気に挨拶した。
「帰り道、佳菜子は『そういうことね』とつぶやきました。バレていたんですよ、やっぱり。どうやら僕の携帯を見たらしい。『ママのこと、愛しているの?』と佳菜子は尋ねてきました。『きみの言う愛ってなに?』と僕は思わず言ってしまった。実は、若い頃から不思議だったんです。佳菜子は毎日、愛してると言うけど、僕は結局、『好きだよ』とは言うものの『愛してる』はなかなか言えなかった。愛が何かわからなかった。子どもたちのことは無条件に受け入れていましたよ。でもそれは親としての責任と、彼らの命を守りたいという強い欲求で、“愛”と言えるものかどうかわからない。だから佳菜子の問いに『愛しているかどうかわからない。でもいつもひとつになっていたい』とバカ正直に答えちゃったんですよ」
佳菜子さんは「ひとりで帰るわ」と離れていった。彼が自宅に帰り着いたとき、妻はまだいなかった。そしてその晩、妻とふたりの娘は夜遅くなってようやく帰宅した。
「私の人生は壊れてもいい」
妻はその晩、彼に言った。娘たちには全部話した。マスターにも話そうと思っていると。
「わかった。別れるからマスターには言わないでほしい。彼女の人生を壊したくない。悪いのはオレだからと言ったら、『彼女をかばうのね。私の人生は壊してもいいと思ってるのね』と。そういう意味じゃないと言ったけど、妻は聞く耳を持たなかった。翌日、里恵に連絡して、バレた、ごめんと謝りました。里恵は『わかった』と。そして『私の人生は壊れてもいい。あなたと一緒にいたい』って。泣きました」
家を出ようと思った。だが大学院に通う長女から「おとうさん、自分の好きなように生きていいよ」というメッセージが届き、裕治郎さんはまた泣いた。てっきり母親の味方についたと思っていた娘は、そんなふうに冷静に見ていてくれたのだ。だが、そういうふうに育ててくれたのは佳菜子さんだ。どんどん頭がこんがらがっていった。
「佳菜子は最後のところで踏みとどまってくれたんでしょう、マスターには言わなかったようです。僕らはそこで別れればよかったのに、また会うようになってしまった。離れられなかった」
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