「苦しみは全て家族のせい。皆殺ししてしまおう」 「ボーガン4名殺傷犯」が親族に抱いた“身勝手すぎる憎悪”の中身 「母は自分をアピールするために私を使い…」

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 2020年、兵庫県宝塚市の住宅においてボーガン(クロスボウ)を撃ち、家族3人を殺害。親族1人に重傷を負わせ、殺人罪などで起訴された野津英滉(ひであき・28)被告の裁判員裁判が9月25日から神戸地裁で開かれた。10月31日の判決公判で松田道別裁判長は野津被告に無期懲役の刑を言い渡した(求刑死刑)。

 以下はこの裁判の傍聴レポートである。【前編】では4名が殺傷された凄惨な犯行の詳細を述べた。【中編】では、法廷で被告自身が語った自らの家庭環境と、犯行の動機について詳述する。

【前中後編の中編】

【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

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十分な愛情を受けず…

 ボーガンで撃たれた伯母が自宅を脱出し、近隣に助けを求めたことで警察官が臨場。被告は逮捕された。被告がその後語った内容をまとめた陳述書や、裁判員裁判の被告人質問で語ったのは、家族への憎悪だった。

「母、祖母、弟からのストレスや苦しみを説明する時、3人の人間性が大きく関わってきます」(被告の陳述書より)

 両親が離婚したことで、幼少期から母親と弟との3人暮らしだった野津被告は「自閉スペクトラム症があり、厳しい家庭環境に育った」(弁護側冒頭陳述)という。「母親は境界知能で精神科に通院していた。弟にも注意欠陥多動性障害があり、母親はもっぱら弟にかまい、被告を放置した」(同)ことから、十分な愛情を受けずに育ったと感じていたようだ。

自分の人生も終わらせたい

 中学生の頃には被告は強迫性障害を発症。3年生のとき、祖母の家に身を寄せ、二人暮らしを始めた。この祖母宅が被告の事件当時の自宅であり、事件現場となる。

 一人で実家を出て祖母と暮らし始めてからの被告は、精神的に安定した生活を送り、大学へと進学。ところが、弟による暴力が原因で母親がシェルターに避難したことから、家にひとりとなった弟も祖母宅に引っ越し、ともに生活するようになる。のちにシェルターを出た母親は祖母宅の近くに単身居住していた。

 祖母と弟との3人暮らし。母親とは寝食を共にしていなかったが、不満は燻り続けていた。「母親は被告を気にかけず、死にたいという気持ちが大きくなった。しかし、死ぬだけでは無理、原因は母親にある。野津家の一員を終わらせて精算したい。事件を起こした後、出頭し死刑になって自分の人生も終わらせたい。それがもっとも正しい選択」(同)として、伯母も加えた4人の殺害計画を立て、実行に移したという。

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