「苦しみは全て家族のせい。皆殺ししてしまおう」 「ボーガン4名殺傷犯」が親族に抱いた“身勝手すぎる憎悪”の中身 「母は自分をアピールするために私を使い…」
嫌悪する家族
嫌悪する家族との暮らしの中で野津被告は心身の不調を感じ始めた。「頭の回転が遅くなっていった。考えたいのに考えられない。伝えたいように伝えられない。やれてたことが出来なくなった。短時間の思考が何時間もかかる。思考の固定化ができなくなっていった。脳がいうことをきかない。思うようにコントロールできない……」と、陳述書に苦悩を語る。「記憶がたどりにくくなったり、トイレに入っても考えがまとまらない。部屋で考え事をしていると、気づくと何時間も立っている。脳が反応している手応えが全くない」という状態のなかで「それに反応して腸の調子もおかしい」と感じ始めた。
「出したいときに出せない。逆にケツを締めたいのに締めれない。脳の命令が伝わっていない」
不調を感じたことから病院で検査をしてもらったが異常はないと言われた。しかし「そんなことないと思った。検査で分からない問題があると思った。治したいけど治らない。脳が機能してなくてストレスを感じ、この先人生を送れない、死にたいと思った」。
希死念慮
家族関係に思い悩み、抱き始めた希死念慮は、心身の不調を感じたことによって大きくなっていったようだ。心身に不調を感じていることにより、家族の問題に対処できなくなってゆき、被告はさらに絶望した。
「脳をコントロールできなくなったことで日常を送れなくなったことに悲観して本当に死にたくなった。積もり積もってきた母親を中心とする不満に対処できず、うらめしく思い、こいつらが死んでくれれば楽になって人生が開けると最初は思ったが、体調不良は依然として続き、引っ越すことも考えたが、精神状態が悪く、ままならない。どこかに行っても血のつながりは消えない」
こうして当初は自殺を考えていたというが「ただ死ぬだけでは意味がないとも思った。家族が残ると、私の苦しみを顧みることなく自分の思いを好きに語るだけだろう」と、自分の死が家族の“都合の良い物語”になることを懸念し、思いとどまる。そして「私が苦しいのは家族のせい。そうであれば私を苦しめる家族を皆殺してしまおう」と、祖母や母親、弟の殺害を決意する。
「家族関係を終わらせたい。精算したい。その上で最後には死のう」と決めた野津被告。しかし、「家族を殺して自殺するだけでは満たされない」として「殺して自首して説明したい。その上で死刑になることで命を終わらせたい」と、死刑になる前に、自らの抱えた事情を広く世に知ってほしいと思い始める。しかし「以前大学の講義で、3人殺しても家族だと減刑される可能性があると聞いた」ことから「伯母も親戚で、広い意味で家族の一員である」として、伯母も含めた4人の殺害を計画し始めたのだった。つまり伯母を殺害しようとした理由は“自分が確実に死刑になるため”である。
このような一方的な動機に基づいて、被告は残虐極まりない犯行を起こした。では、なぜ被告は凶器にボーガンを選んだのか。法廷で「後悔は?」「罪の意識は?」と弁護人に尋ねられた際、被告が残した衝撃の「答え」とは。【後編】で記す。




