アメリカで原画展が開催中! 『天才柳沢教授の生活』の山下和美氏に訊く“アナログ原画”の醍醐味 「私は今でもカラーだけアナログなんです(笑)」

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 9月27日から、アメリカ・サンフランシスコの「デ・ヤング美術館」で、アメリカでは初となる日本の漫画の「Art of MANGA」展が開催されている。今回の企画展が画期的なのは、その展示の充実ぶりであろう。荒木飛呂彦氏、尾田栄一郎氏、高橋留美子氏、田亀源五郎氏、谷口ジロー氏、ヤマザキマリ氏、山下和美氏、よしながふみ氏の8人の原画が、700点以上展示される大ボリュームの展示会なのだ。

 日本でも原画展は盛んに開催されているものの、一作家、一作品にクローズアップしたものが大半で、これほどのスケールの展示会は珍しい。いったい、なぜこれほどの展示会が実現したのか。展示作家の一人である山下和美氏に話を聞いた。山下氏は『天才柳沢教授の生活』『不思議な少年』『ランド』などの作品で知られ、現在は「週刊モーニング」で『ツイステッド・シスターズ』を連載中の漫画家である。【取材・文=山内貴範】

日本漫画の大規模な展示会が開催

――山下先生が「Art of MANGA」展に参加することになったきっかけを、教えていただけますか。

山下:2019年に大英博物館で開催された大規模な漫画展、「The Citi exhibition Manga」を企画したニコール・クーリッジ・ルスマニエールさんから突然連絡が来たのです。ルスマニエールさんは日本漫画の研究者で、大英博物館の展示は1人の漫画家の作品を1~2ページ紹介する形でした。アメリカでは、紹介する漫画家の数を絞りながらも、しっかりとその漫画家にクローズアップした展示を行いたいと言われたんですよ。

――出展する漫画家が選ばれたポイントは何だったのでしょうか。

山下:詳しくはよく分からないのですが、おそらく私の場合は、『ランド』が手塚治虫文化賞を受賞したおかげだと思います。ただ、アメリカで展示してもらえるなら嬉しいなと思ってお引き受けしましたが、どんどん話が大きくなり、他の漫画家さんの名前を聞いたら、自分が選ばれたことが驚きです。

――山下先生の漫画の海外での出版状況や、外国人からの反応はどんな感じでしょうか。

山下:『ランド』の翻訳版は中国も韓国でも出ていないのですが、手塚治虫文化賞の余波なのか、フランスでは出版されていて、ありがたいことに好評のようです。内容はある意味ファンタジーなので、欧米の方に引っかかるものがあるのかもしれません。

 今回の原画展を機に、自分の漫画や絵がアメリカでどのような評価を受けるのか、とても楽しみにしています。

国内でも原画展は盛況

――原画展が国内で開催される機会も増えています。山下先生の原画展も「世田谷文学館」など、各地で開催されています。

山下:私の場合、原画展を機に『天才柳沢教授の生活』など、昔の漫画を知っていただくこともあるので、すごくいいと思いますね。「世田谷文学館」は漫画家の原画展が盛んですし、私が保存に取り組んで運営にも関わっている「旧尾崎テオドラ邸」でも原画展をメインで行っています。

 実際に原画展を開催してみると、来館者の方からの反響が大きいんです。現在はデジタル全盛の時代ですから、原画展はアナログの良さを再認識する機会になっていると思います。

――「旧尾崎テオドラ邸」は原画展の聖地になっている印象です。最近だと、浦沢直樹先生の展示会が注目されました。

山下:浦沢先生は今でも紙の単行本やアナログの原稿にこだわっているので、様々な面で協力してくださっています。個人的には、1970~90年代の漫画の原画展はもっとやってほしいですね。絵がきれいな作品が多いですし、アナログ原画は見た時のインパクトが強いですから。

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