「日本には四季がある」ももはや瓦解… 外国人にホメてもらわないとプライドが保てない日本人

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 本稿執筆中の10月13日、私が暮らす佐賀県唐津市の気温は30℃。新聞によると、鹿児島県肝付町では12日に観測史上もっとも遅い猛暑日となる35.0℃を記録。なんなんだコリャ。衣替えは10月が定番でしたが、私は相変わらず短パンとTシャツとサンダル。この格好を始めたのは早くも5月で、いずれ年の半分は夏スタイルになってしまいそうです。

 日本には四季がある、というのも定番の修辞でした。あぁ、春は桜、夏は入道雲、秋は紅葉、冬はこたつにミカン。そんな風情も今は昔、もはや「二季」じゃないですか! 紅葉にしても昔は11月上旬にイチョウ並木が黄色く色づいたものなのに、今や11月末にやっと色づき、12月に葉が大量に落ちる。

 そこから冬に入って猛烈に寒くなるも、3月に暖かくなり過ぎ、関東では4月がこれまた定番だった桜の開花が3月下旬に。4月は快適な気候ではあれ、GWを迎える頃には短パン姿でないと暑くて仕方がない。

 実は、こうした状況が意味するのは、ネット上で幅を利かせる「愛国者様」が主張なさる、日本の誇りたる最後の砦がついに崩壊してしまったということです。

 元々ネット上の愛国者の皆さまは、日本の国柄を誇る際、以下の主張をしていました。「GDP世界2位の経済大国」「高い技術力」「アジアの盟主」「勤勉な国民性」「世界で認められる日本企業」……。

 しかし、GDPで中国に抜かれ、半導体や家電の分野では韓国と台湾の後塵を拝し、アマゾンやTikTokといった世界的有力プラットフォームを作れなかった時点で、前記の多くは瓦解してしまいました。

 そこで愛国者の皆さまが縋(すが)ったのが「日本は水がきれい」でした。しかし結局、多くの人がミネラルウォーターを飲んでいるわけですし、水源も外国企業に買われたりしている状況。

 そこで最後に残ったのが「日本には四季がある」。

 まぁ、これは若干、冗談めいた自慢です。彼らを揶揄する側も「もうそれぐらいしか言うことないんだろ(笑)」と嘲笑するネタにしていた面がありで。ただ、これすらなくなってしまうかもしれないことを現下の「二季」は物語ります。

 ネットでは、日本に旅行で訪れた外国人への街頭インタビューやSNSでの発言を基にした記事が相変わらず多いです。外国人にホメてもらわなくてはもはや自我とプライドが保てない。そうした寂しい状態なのです。しかも切ないのは、記事の内容が「このクオリティーの食事が1500円なんて安過ぎる。ミーの住むアメリカだったら5500円はする!」みたいな話であることです。

 賃金が激上がりした外国人にとって円安の日本は快適だというだけの話なのに、なぜかこの手の記事は量産され、編集部も読者も気持ちよくなっている。

 そして大谷翔平です。今年もMVPを取るでしょうが、彼に国の誇りを託し過ぎている感が。来年3月のWBCで優勝しようものなら、大谷と侍JAPANを過度に持ち上げ、「日本すごい!」が連呼されそう。

 しかし、WBCは外資系のNetflixの独占中継へ。日本の放送局の負けでした。マネーゲームでも退勢あらわ。言いたくないけど、日本、すごくない……。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年10月30日号掲載

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