ふるさと納税の問題点を菅元総理に進言して“左遷”されたエリート官僚も… 専門家は「制度自体が憲法違反」
菅氏に提言したが……
秋田の寒村に生まれ、集団就職を機に上京。政界入りした菅氏は、長男にもかかわらず農家を継ぐことはなかった。ゆえに人一倍、故郷へ恩返しをしたいという気持ちが強く、ふるさと納税を立ち上げた。
そうした類いの美談は盛んに報じられてきたが、当初の理念からはほど遠い姿になった“わが子”について、どう考えているのか。
「2014年に総務省の自治税務局長に就任した際、第2次安倍政権で官房長官だった菅さんにあいさつに行きました。すると彼は“ふるさと納税、分かっているよな”と言ってきたのです」
と明かすのは、総務省の元幹部で、立教大学経済研究所研究員の平嶋彰英氏。
「前任者の一人は、菅さんから“俺はふるさと納税の寄附金総額を1兆円にしたい”と言われ、その手段として、寄附金の上限を倍に引き上げ、それに確定申告不要のワンストップ化という拡充策を命じられていた。それを前任者たちはいろいろ事情もあって見送ってきた。私が担当局長だった当時は、返礼品の問題がだいぶ大きくなっており、もはや看過できない状態でした。『基本方針2014』にふるさと納税拡充の方針が記述され、返礼品の問題に手をつけざるを得ないことは、理解してもらえるだろうと考えたのです」
換金性の高い純金製のグッズや海の見える別荘など、エスカレートする返礼品合戦を鎮めようと、平嶋氏はこう提言したという。
「返礼品をこのまま放置しておくのはまずいと思って、“菅さんは普通の人に制度を使ってほしいのでは”“こんな人もいるんですよ”と申し上げた。『100%得をするふるさと納税生活』という本のコピーを渡しました。その本は返礼品だけでタダ同然の暮らしができるという内容。私は“菅さん、こういう人が出てくるほど、とんでもないことが起きています。マズいのでは”と言いました。すると、菅さんは“こんな人ばかりじゃない。俺の意志に応えて、多額の寄附をしてくれている人を、俺は何人も知っている”と主張されるばかりで、話が進みませんでした」
「菅さんは“何が悪いんだ”と」
それでもめげずに本のカラーコピーを執務室に置いて帰った平嶋氏に対して、同席していた職員が声をかけてきたという。
「菅さんから“返してこい”と言われコピーを持ってきたと。返礼品の欠陥を指摘されても、菅さんは“何が悪いんだ”と人の話を聞く気がなく、“夕張みたいにメロンを配り、うまくやっているところもあるじゃないか”などと、ご注進するわれわれ官僚に“せっかくうまくやっているのに水を差さないでくれ”と言ってきた。しかも寄附額の上限を当時の1割から、現行の2割へと倍増することを求められていたのです」
問題点を指摘するのが自らの役目だと覚悟した平嶋氏は、こう振り返る。
「私だっていろいろと指摘するのは気が進まなかった。それでも制度の問題点を伝えなくては、所管する自治税務局長の職務を果たしたことにはならない。それで最後に菅さんと衝突してしまいました。こちらとしては、返礼品など本来あってはならないと法律に明文化してほしかった。それについても菅さんから“ダメだ”と断られてしまいました」
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