ふるさと納税の問題点を菅元総理に進言して“左遷”されたエリート官僚も… 専門家は「制度自体が憲法違反」
【前後編の後編/前編からの続き】
約1000万人の納税者が利用する「ふるさと納税」を巡ってトラブルが絶えない。自治体や企業と国の間で裁判沙汰まで起きる始末だが、背景には利用者たちが目をつぶってきた制度自体の問題がある。お得な返礼品がもらえるからと喜んでいる場合ではないのだ。
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前編【「ふるさと納税」寄附金のうち約5900億円が経費として消えていた! 「富裕層ほど得をする」指摘も】では、寄附金のうち約5900億円が経費として消えている問題など、ふるさと納税が抱える諸問題について報じた。
さらにこんな懸念もある。
「地方自治の観点からすれば、納税者の自由意志で納税先を選択できてしまえば、税収を奪われる都市部の自治体は、財源減少によって、行政サービスやインフラ整備などに影響が及びます」(立命館大学名誉教授〈財政学、地方財政論〉の平岡和久氏)
実際、「ふるさと納税ベスト&ワースト20」のランキング表における「流出自治体」を見れば、ワースト自治体の多くが東京23区なのだ。これら特別区は、ふるさと納税を含む国の税制改正によって、この10年で累計約2兆円もの影響を受けているとされる。
流出額が都内トップの世田谷区ふるさと納税対策担当課の課長に尋ねると、
「いわゆる流出額は、控除額ベースで令和5年度は99億円、昨年度は111億円、今年度は123億円と毎年増え続けています。かなりまとまった額なので非常に厳しい状況です。最新額は、令和7年度当初予算のゴミ収集などのための清掃費126億円に匹敵します。また今後の懸念は公共施設、特に区立小中学校の校舎の改築工事です。毎年3校ずつ着手していますが、今後も続々と耐用年数を迎える学校が出てくる。建設コストも上がっていて少しでも影響が出ないよう進めています。ふるさと納税の影響が子どもにまで及んではいけませんので」
「返礼品なし」を選ぶ自治体も
23区内で2番目に人口が多い練馬区も深刻である。
「昨年度は約50億円が区外へと流出しましたが、これは公立校の校舎改修費1校分に相当します」
と憤るのは、練馬区長の前川燿男(あきお)氏である。
「流出しなければできたことはたくさんあると思います。練馬はさまざまな課題があり、例えば区立美術館の改修、都営大江戸線の延伸も控えています。延伸は都がメインの事業体ですが、計画より遅れて費用がかかるので、区からも資金提供したいと思っているのです」
10年以上前からふるさと納税に反対だった前川氏は、あえて「返礼品なし」とする。
「練馬区は返礼品競争に参加しないと公言しましたが、反対する区議は一人もいません。公共サービスを自分たちの税金でやるのが地方自治の大原則で、ふるさと納税は滅茶苦茶ですよ。安易に返礼品競争へと参加したら、自治制度の根幹を壊すことになりかねません」
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