ルーブル美術館で155億円相当が消えた大盗難事件 「テロかと思った」現場に居合わせた日本人が語る緊迫の90分
10月19日にルーブル美術館で起きた盗難事件は、フランス国内のみならず、世界中で大きな話題を呼んでいる。犯人グループはわずか7分で犯行に及んだのち、あらかじめ用意していたスクーターで現場から逃走し、その後の足取りはわかっていない。現地ジャーナリストのヴェイサードゆうこ氏が、事件当日に現場に居合わせた日本人の証言をもとにレポートする。
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【画像】避難しようとする人々が出口に殺到し…緊迫の「ルーブル美術館」現場の様子 ほか
事件が起きたのは、フランスの学校が秋休みに入った日曜日、パリ市内も休暇や観光などで人出の多い日でした。
ルーブル美術館が開館して間もない午前9時30分頃、工事の作業員を装った4人組が、引越用のはしご車を使って美術館2階の窓から侵入し、「アポロン・ギャラリー」に展示されていたナポレオンとその皇后たちにまつわる宝飾品──ティアラ、ネックレス、ブローチなど8点を盗んで逃走しました。被害金額は8,800万ユーロ(約155億円)とされ、いまも犯人は見つかっていません。連日、フランス国内はこの話題で持ちきりです。
この日、ルーブル美術館地下の展示会場「カルーセル・デュ・ルーヴル」では、アートフェア「Art Shopping」が開催されていました。現代アーティストの國澤優希さんは作品を出展するためにパリを訪れており、家族と美術館ツアーに参加していたところを盗難騒ぎに巻き込まれました。
館内で足止めされ、避難するまでの一連の出来事を國澤さんに伺いました。
◇モナ・リザの直前で足止めにあう
「19日の9時半前に私たちはルーブル美術館に入りました。あと少しでモナ・リザというあたりまで来た時、スタッフさんからその場で動かず待つように言われました。10分位はそこで待っていたと思います。その後、理由は聞かされないまま、今度は急いで外に出るようにと指示がありました。スタッフさんの様子から、何かがあったのだとすぐわかる、緊迫した状況でした」(國澤さん)
モナ・リザが展示されている「国家の間」は、盗難があった「アポロン・ギャラリー」から数十メートルしか離れていません。國澤さんたちが待機していたのは、まさに犯行現場の目と鼻の先だったのです。
テロが起こったのかと思った
「スタッフに誘導されて出口に向かいながら、周りの人たちも何が起こっているのかわからず、困惑して不安な様子で、終始ざわついていました。階段を降りる途中には、ライフル銃を持った兵士や警察もいて、早く出るようにと大声で呼びかけていました。最初はテロかなにかが起きたのかと思い、怖かったです。また、詳しい人数はわかりませんが、移動するたびに目にとまるくらい、大勢の警察官が美術館内に入ってきていました」(國澤さん)
ルーブル美術館の広さは東京ドームの約1.3倍です。モナ・リザが展示されている2階から出口までは、通常でも歩いて10分ほどかかります。それだけに、いかに厳戒態勢が敷かれていたのかがうかがえます。
◇パニックまではいかないが不安が募る
「出口付近まで来た時に、美術館員と話していたスタッフさんに何があったのか聞いたところ、『モナ・リザの部屋にある一部のものが盗まれた』というようなことを言われました」(國澤さん)
実際に盗難があったのはモナ・リザの展示室ではないので、この時点では館内でも情報が錯綜していた可能性もあります。
「退館を促されて流れるように外に出ましたが、周囲も口々に何があったのかと聞いていましたね。スマホで動画を撮影する人もたくさんいました。ツアー参加者で出口付近に集まってから全員で外に出たとき、時計を見たら10時42分でした。その後も待避しようとする人が押し寄せてきたので、後ろから押されるのが怖かったです」(國澤さん)
國澤さんは小学生のお子さんを連れていました。お子さんはよほど恐怖を感じたようで、事件当日や翌日に「犯人が捕まったか」「だれか死んだりしていないのか」と何度も尋ねられたそうです。
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