「1日7000歩以上歩くべきだとよく言われる」をファクトチェックする難しさ…校閲者はどこまで“抱え込む”べきか

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未確認箇所の明記が重要

 1番のハーバード大学の文章や、3番の大臣の文章などからも分かるように、ファクトチェックという作業は校閲だけのものではありません。そのゲラに関わる編集者、著者が主体的に関わることによってはじめて、充分なファクトチェックが遂行できるのです。

 ファクトチェックは「やろうとすればやることはいくらでもある」類の作業です。だからこそ逆に、校閲者が“ファクトチェックの悩み”のすべてを抱える必要はない、と私は考えています。そもそも、テキストは著者のものであり、校閲者のものではありません。

 媒体やジャンルによっても対応は異なるものの、時にはスパッと線引きして、「ここから先のことはわかりませんでした」との旨をゲラに明記したうえで編集者や著者に“委ねる”姿勢も必要になってきます。このとき、「未確認箇所をゲラに明記すること」はとても重要です。

 もちろん、校閲が早々に諦めるのもいけません。基本的な事項を調べていないのでは“職務放棄”となってしまいますし、長い時間をかけて見つけ出した疑問が大きな効果を発揮する場面もあります。校閲とは一にも二にも“バランス感覚”の仕事なのかもしれません。

 患者さんを見ずに電子カルテばかり見ているお医者さんが批判されることがありますが、「校閲がゲラじゃなくてパソコンばかり見ている」と批判されないよう、私も気を付けて仕事をせねば……と思う今日この頃です。

おわりに

 さて、この連載は今回(第30回)で終了となります。もっと長く、というお話もありがたいことに頂戴していたのですが、30回で終わりとさせていただくことにしました。

「読む」という行為は仕事上で毎日これでもかというくらい実行してきましたが、「書く」に関してはやはり別物で、苦労の連続でした。2倍以上の分量を書いてしまい、そこから規定字数まで削ったこともあります。「書くことは削ること」というのは本当なのだな、と身をもって痛感しました。

 この経験を校閲の仕事にも活かさなければ……。とはいえ、「書き手の気持ちがわかった」などという甘言を弄するつもりは毛頭ありません。「最初の読み手」として、常に謙虚に、ときには大胆に(?)仕事を進めていきたいと思います。今までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

甲谷允人(こうや・まさと Masato Kouya)
1987年、北海道増毛町生まれ。札幌北高校、東京大学文学部倫理学科卒業。朝日新聞東京本社販売局を経て、2011年新潮社入社。校閲部員として月刊誌や単行本、新潮新書等を担当。新潮社「本の学校」オンライン講座講師も務める。

デイリー新潮編集部

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