「中国電波ジャック」「赤字449億円」のNHKに「高市首相」が切り込む日 民放も警戒感

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高市氏のリベンジ?

 NHKの会長は2008年から11年まで務めた故・福地茂雄氏=元アサヒビール社長=以降、6人連続で外部の財界人が招かれている。だから、どの会長にも同局内に強い基盤がない。自民党の後ろ盾に頼る部分が大きくなる。

 月刊誌で匿名職員たちに批判されるなど、前田氏の立場が在任中から弱くなったのはうなずける。安倍氏は前田氏の就任から約半年後の2020年9月に健康上のことなどを理由に首相を退任した。また前田氏が在任中の2022年7月には暗殺されてしまった。

 葛西氏も2022年5月に病死した。高市氏も安倍氏が首相を退いた2020年9月に総務相を退任した。前田氏は頼る人を失っていたのである。

 総務相退任後、NHKに甘く見られているフシがあった高市氏。首相になったら、反撃するだろう。なにしろ高市氏にとって放送は本籍地なのだ。

 まず次期会長人事に威力を発揮するのは確実。稲葉氏は複数の理由から続投は難しいと見られる。

 まず外部から招かれた財界人の会長で続投した例はない。さらに健康上の理由もある。稲葉氏は2025年5月に初期の肺がんであることを公表し、治療を開始した。

 高市氏が特に気にするガバナンスの問題もあった。2024年8月、ラジオの国際放送やAM第2の中国語ニュースで、中国籍の男性外部スタッフが、「(尖閣諸島は)古くから中国の領土」「南京大虐殺を忘れるな」などと勝手に話した。

 電波ジャックである。信じがたい不祥事だった。中国側のプロパガンダがNHKで流れてしまった。対中問題で強硬姿勢を見せる高市氏は許せないのではないか。

 そのほか、受信料の再度の値下げも考えられる。総務相時代の高市氏のNHKに関する第一の関心事は受信料の値下げだった。首相としての有権者へのアピールにもつながる。そもそも自民党内には2006年の段階で「下げるなら2割」という考え方があった。前回の値下げは1割である。

 もう1割の値下げを強いられたら、NHKの台所事情はかなり厳しくなる。前回の値下げを受け、2023年度決算の赤字は約136億円に達した。

 2024年度の赤字は約449億円。2025年度も400億円の赤字が見込まれ、来年度も赤字になる見通し。現在は巨額の内部留保で穴を埋めているが、補填できる金額にも限界がある。だから制作費の1割程度の削減が始まっている。

 受信料収入を増やす方法はある。以前から自民党が提案している受信料の支払い義務化だ。それで収入は確実にアップする。なにしろ現在の支払率は全国平均で77.3%しかないのだから。東京は66.2%ともっと低い。

 イギリスのBBCもドイツの公共放送も受信料支払いは義務。ただし、日本でなじむかどうかは未知数だ。

 さらに高市氏は反故にされた前田改革を再び動かそうとするのではないか。前田氏がやろうとしたことは突飛なことではないからだ。

 2016年、総務相だった高市氏は放送局が政治的公平性を欠くと判断した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。根拠は放送に政治的公平を求めた放送法4条である。

 放送界は猛反発したが、世間には高市発言を支持する人も見受けられた。放送批判が以前より高まる中、今はどうなるか。民放も油断できない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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