「中国電波ジャック」「赤字449億円」のNHKに「高市首相」が切り込む日 民放も警戒感
NHKが拒んだ前田改革
前田氏は高市氏の言葉に従い、受信料値下げの準備を進めた。一方で職員の管理職昇進の際に試験を課すことにした。若手職員の抜擢などが狙いだった。
また、職員がある年齢に達したら、管理職ではなくなる役職定年制を設けた。これも若手の登用などを目的とした。さらに早期退職制度を導入した。民放など一般企業では当たり前の人事制度改革だった。
その結果、受信料は下がった。2023年10月から1割安くなった(衛星プラス地上契約月2220円が1950円に)。稲葉氏の時代になってからのことだが、前田氏の置き土産である。一方で人事制度改革には職員や反前田派の幹部が猛反発した。
前田氏の在任中だった2022年5月、月刊誌『文藝春秋』にNHKの職員有志一同による「前田会長よ、NHKを壊すな」と題された寄稿文が載った。そこには「前田会長のもとではもはやこの先の未来が描けない」などと過激な前田批判が書かれていた。
会長が事実上、自民党の意思で決まるという異常性が前提にあるにせよ、特殊法人の職員たちが雑誌を使い、匿名でトップを批判するというのは尋常ではない。高市氏が懸念した通り、ガバナンスに問題があったのか。
結局、前田改革は多くが白紙に戻された。2023年に会長に就任した現在の稲葉氏が、前田改革見直しの指揮を執った。これにより、管理職試験は白紙になった。役職定年制度も見直された。
稲葉氏の会長就任時、首相は岸田氏だった。稲葉氏については、岸田氏の師匠に当たる故・宮沢喜一元首相が、日銀の若手行員時代から高く評価していた。
そのうえ、稲葉氏は岸田氏の従兄弟である宮沢洋一氏(75)の旧友だった。稲葉氏と宮沢氏は東京教育大(現筑波大)付属中高の同級生なのだ。
一方、前田氏の屈辱は月刊誌上での批判や改革の白紙化だけではなかった。前田氏は会長在任中、BS番組をネット配信するため、9億円の設備購入費の予算を付けた。だが、BS番組は権利処理や費用の問題などから、ネット配信できない。この事実は稲葉体制になってからの2023年5月、NHKから発表された。
この際、稲葉氏は「違法な支払いは未然に防いだが、(予算が執行されていたら)放送法違反になった恐れがあった」と発言。放送法違反に問われるのは放送人にとって大きな屈辱である。
これにより前田氏は退職金が10%減額された。稲葉氏の判断は当時の松本剛明総務相(66)も後押し。松本氏を総務相に任命したのも岸田氏だった。
一方、前田氏は納得しなかった。2024年1月、経営委員会あてに意見書を送る。その文面にはBS番組のネット配信問題については「冤罪デッチ上げ事件」と書かれていた。激烈な抗議だった。
「(予算計上は)新しいサービスの提供をするための準備」(前田氏)
どちらの言い分もうなずける。分からなかったのは新旧の会長が激しく対立したこと。前田氏と稲葉氏では自民党の後ろ盾が違うことが理由の1つなのだろう。
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