「僕、手加えちゃっていい?」――木梨憲武にタブーの垣根はない 福祉施設のアーティストたちとのコラボ現場

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人の手をモチーフにした図録

 木梨からプロジェクトの声をかけられるたびに山下が背中を押された言葉があるという。

「なにも心配せずにやっちゃえばいいんだよ」

 私はその言葉を聞いたときに、やまなみ工房ととても似ている、と思った。私はやまなみ工房の展覧会を企画担当したことがあるが、その時に、

「やりましょう。全力で走り抜きましょう」

 という言葉を度々もらった。そのことで迷いが吹っ切れる経験を何度もしている。

 木梨憲武とやまなみ工房には、他にも似ている点がある。「スタッフがいるからこそ」が口癖なところとか、「人の悪口を言わない」とか、人としての立ち姿が似ているのだ。

 今回の「木梨憲武展」の図録の表紙はぐるりと黒が基調。

 展覧会の図録でもあり独立した画集でもある、という雰囲気のこの一冊は、木梨がやまなみ工房と出会うきっかけとなった『やまなみ工房作品集』と同じRISSIが制作デザインしている。こうして新しい人がどんどんチームになっていく。

 木梨の作品には、人の手をモチーフにした『REACH OUT』というシリーズがある。このシリーズについて木梨はこう記している。

「一本一本の手を描くとき、俺にその手を差し出してくれたいろいろな人のことを思い浮かべている。感謝とともに……。そして新しい仲間も大歓迎! 手をつなぐ!!」(『木梨憲武自伝 みなさんのおかげです』木梨憲武著、小学館、2024年)

 黒い図録の表紙には、細いペンで『REACH OUT』の作品が描かれている。これも、意味ある偶然?

土居彩子(どい・さいこ)
1971年富山県生まれ。多摩美術大学芸術学科卒業。棟方志功記念館「愛染苑」管理人、南砺市立福光美術館学芸員を経て、現在フリーのアートディレクター。

デイリー新潮編集部

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