「僕、手加えちゃっていい?」――木梨憲武にタブーの垣根はない 福祉施設のアーティストたちとのコラボ現場

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“木梨憲武”と聞くと、多くの人が「お笑い芸人」「とんねるず」を思い浮かべるだろうが、2014年から2016年にかけて全国8会場を巡回し話題を呼んだ「木梨憲武展×20years」を契機に、彼の「アーティスト」としての側面が脚光を浴びている。

 絵画だけではなく、ドローイング、映像、オブジェなど自由な発想による作品200点を展示する本展では、滋賀県甲賀市の障害者福祉施設「やまなみ工房」のアーティストとコラボレーションを試みた。その舞台裏を探る。

タブーの中にこそ、開けるものがある

「ねえねえ、山際くんの作品に、僕、手加えちゃっていい? 普通なら怒られちゃうけどね」

 木梨憲武のその言葉に、やまなみ工房施設長・山下完和(まさと)はなんの迷いもなかったという。

「人の作品に手を加えることを、アート界ではタブー視する人もいます。ましてや原画、障害のある人の作品ですから。でもタブーやN Gとしているところに飛び込むことで、開けるものがある。そして木梨さんと一緒に制作することで、作家本人が楽しそうにしているなら、誰に何を言われても、全く気にすることはありません。目の前の大切な人が楽しんでいるなら、それ以外のことは一切ありません。断言ですよ」

 コラボ作品を見て感じるのは、作家の核心にしなやかに身を寄せる、木梨のカメレオンのような柔軟性である。飛び散る絵の具や細かに書き込まれた文字は、作品の特性を傷めず邪魔せず、むしろ伸びやかに助長している。

 現在全国を巡回している「『木梨憲武展』TOUCH-SERENDIPITY意味ある偶然」に作品が出品されていることから、やまなみ工房を知る人は多いだろう。しかし私はやまなみ工房を通してアーティスト・木梨憲武を知った。

 やまなみ工房とは、国内外から注目を集めている滋賀県にある福祉事業所である。障害のある通所者の主体的な時間の過ごし方、そこから生まれるユニークな作品が、国境を超えて高い評価を得ている。

 そのやまなみ工房施設長・山下が語る「人間・木梨憲武」の姿に、私は猛烈に興味を抱いた。そしてすぐに金沢21世紀美術館で開催されている「木梨憲武展」を訪れた。

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