タカイチに李在明がケンカを売れない3つの理由 「極右政権誕生」に歯がみはするけれど――鈴置高史氏が読む

  • ブックマーク

TPPは日本の拒否権が壁

――米中以外の市場を開拓する必要がありますね。

鈴置:その点からも韓国は日本を敵に回せません。李在明政権はCPTPP(包括的・先進的環太平洋経済連携協定)に加盟する方針を打ち出しました。オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、英国の12カ国が参加する貿易協定です。

 当初は米国も参加予定で、経済的な対中包囲網と見なされていました。韓国も入りたかったのですが、中国の顔色を見て動けませんでした。対米・対中輸出ともに減りそうになった今、ようやく正式に参加を表明したのです。

 でも、加盟するには既存の加盟国の同意が必要です。韓国は2013年9月に、東日本の大震災を理由に福島など8県の水産物の輸入を禁止しました。

 開催決定の直前に発動したことから見て、東京五輪を妨害しようとの意図は明らかでした。決まった後も、韓国選手団は東京に自前の食堂を作り、世界に「汚染された日本」を訴えました。

 日本政府はWTO(世界貿易機関)違反として是正を求めていますが、韓国は拒否しています。CPTPP加盟の際の交渉カードに使うつもりなのでしょうが。いずれにせよ、このままでは日本の同意を取り付けることはできません。

日韓大陸棚でひやひや

――通貨スワップにCPTPP……。日本は思う存分、韓国ののど元を締め上げることができますね。

鈴置:まだあります。日韓大陸棚協定です。1978年に発効した協定で、九州の西側の広大な海域――第7鉱区と呼びますが――を両国の共同開発区域と定めたものです。

――なぜ、日本の近海を韓国との共同開発区域と定めたのでしょうか?

鈴置:当時は「大陸棚延長論」が国際法の主流でした。このため韓国は遠く離れたこの海域に関しても、自国領土と地形的につながっているとして管轄権を主張したのです。

 しかし1980年代以降、国際司法裁判所が「大陸棚延長論」を否定したため「領土との距離」で管轄権を決めるようになりました。もはや日韓大陸棚協定は法的基盤を失いました。この協定は2025年6月22日以降、いつでも終了を通告できると定められています。通告して3年後に協定は終了します。

 共同開発区域で無くなれば、日本が第7鉱区を自由に開発できる一方、韓国は完全に締め出されます。このため韓国側はいつ、日本が終了を通告してくるかひやひやしているのです。

 聯合ニュースの「岐路の韓日大陸棚協定 きょうから終了予告可能に=開発進まず」(2025年6月22日、日本語版)が「良好な日韓関係」に望みをつなぐ韓国の空気を伝えています。

・韓国側は、今年国交正常化60周年を迎えた両国の良好な関係が続いていることから、日本がすぐに協定終了を通知することはないと見込む。

――第7鉱区に資源はあるのですか?

鈴置:採算が取れそうなガス田などは見つかっていません。締め出されても韓国は経済的に損するわけでもありません。ただ、国のメンツが失われ、政権が国民から非難されるのは確実です。

 尹錫悦(ユン・ソニョル)政権が登場し、日韓関係が改善したかのように演出された際、韓国の外交関係者は日本の要人に協定を終了しないよう働きかけました。

 この頃、日本の意思決定に携わる人たちから一斉に「第7鉱区って何ですか?」と、聞かれたものです。日本人は国益にかかわる重要なことを知らないのです。

次ページ:日本は韓国の言うことを聞くしかない

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。