タカイチに李在明がケンカを売れない3つの理由 「極右政権誕生」に歯がみはするけれど――鈴置高史氏が読む
河野談話を対日攻撃の武器に
――官房長官が謝ったのに、韓国は何が不満なのでしょう?
鈴置:河野談話に味をしめて、事あるごとに謝罪を要求するようになったのです。「慰安婦」はもちろん、歴史カードを繰り出して日本にマウントをとる狙いです。
背景には韓国の経済的成功があります。1988年のソウル五輪を契機に日本からの援助は基本的には消滅した。韓国は日本に対し気を使う必要がなくなったのです。1997年の通貨危機など、突発事態は別として。
もうひとつは経済成長と共に「立派な歴史」が欲しくなったことです。「我が国は一流国」と胸を張るには「日本の植民地になったことなどなかった」――少なくとも「植民地支配は受けたが、不法なものだった」との歴史が要るのです。
朝鮮人慰安婦も大いにこの歴史の捏造に関係します。強制連行ということにしておかないと、大日本帝国の戦争に朝鮮女性が協力していたことになる。
韓国人の多くは「日本の植民地支配が不法だった」証拠として「上海に正統な大韓民国臨時政府が存在し、日本と戦っていた」と信じています。
戦争相手の日本軍に朝鮮女性が協力していたのなら、話のつじつまが合わなくなってしまう。韓国とすれば、慰安婦は強制連行でないと困るのです。
日本政府が佐渡島の金山や軍艦島をユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録しようとするたびに、必ず韓国政府が「朝鮮人労働者の強制連行」も記録せよ、と騒ぐのも同じ文脈です。搦め手から「不法な植民地支配」を認めさせる作戦です。
石破茂首相は2017年と2021年の2回にわたり、東亜日報に対し「韓国人がいいと言うまで日本は謝るべきだ」との趣旨で発言しています(「『韓国が納得するまで謝る』イシバは“第2のハトヤマ政権”だ…尹錫悦が期待する根拠」参照)。
日本がヘコヘコ謝る国に戻りかけた。というのに、「謝罪しないタカイチ」が政権をとったら韓国にとっては大打撃です。河野談話以降、安倍晋三政権が登場するまで、韓国の対日外交は歴史カードによる威嚇で成り立ってきたのですから。
韓国の弱みは通貨スワップ
――では、李在明政権はそろそろ反日の本性を現すのでしょうか。
鈴置:そうしたいのは山々でしょう。でも今、韓国には日本に逆らえない決定的な弱みがあります。まず、通貨スワップです。韓国は関税交渉で、米国に3500億ドル投資すると約束しました。
その投資に関し最近、トランプ(Donald Trump)大統領は「前払いだ」と言い出した。韓国の外貨準備は2025年8月末現在で4163億ドルに過ぎません。もし、一括で3500億ドル米国に送金したら、外貨準備が枯渇して通貨危機に陥る可能性が極めて高い。
そこで韓国政府は米政府にスワップを要求しましたが拒否されました。それどころか、投資金額を3500億ドルから引き上げよと脅されました。
いざという時に韓国に米ドルを供給してくれる2国間の通貨スワップを結んでくれるのは日本ぐらい。岸田文雄政権が関係改善の証として100億ドル規模のスワップを結んでしまっていたのです。
その期限は2026年12月。日韓スワップの延長と増額が韓国の死命を制します。日本に頭を下げる必要がある時、日本にケンカは売れません、どんなに「タカイチ」が不愉快だろうが。
――韓国は米国との関税交渉を打ち切る手がありませんか?
鈴置:そうすれば、乗用車など米国へ輸出する多くの韓国製品には25%の関税がかかることになります。日本やEUの15%と比べ大幅に不利です。貿易収支の黒字が減るのは確実です。赤字になれば外貨準備が減少して通貨危機の可能性が増します。
そもそも中国産業の厚みが増して韓国の対中輸出が細り始めている。この面からも外貨準備は頭打ちの傾向にあるのです。
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