「始めてスキーに行った」「今だにガラケーを使っている」に違和感を覚えるも…実は“間違いではない”漢字表記

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 こんにちは。新潮社校閲部の甲谷です。

 まずはクイズから。

 熟字訓の問題です。以下の熟語の最も一般的な読みは何でしょうか?

 1.花魁 2.刺青 3.無花果 4.美人局

「始めてスキー場に行った」は間違い?

 ネット上で、「○○という漢字表記は間違いで、正しくは△△」といった投稿や記事を目にすることがあります。「なるほど!」と思えるものばかりですが、まれに「これを本当に“間違い”と言っていいの?」と、画面の前でしばし疑問に思うこともあります。今回はそんな「漢字表記の間違い」について考えてみたいと思います(以前ご紹介した「委縮」「萎縮」、「貫録」「貫禄」といった「代用字」については除外します)。

 では、「一部では間違いと言われるが、本当は間違いではない漢字表記」にはどのようなものがあるでしょうか。

 代表的な例として、「始めてスキー場に行った」などとして使われる副詞の「始めて・初めて」というものがあります(「スキーを始めて1週間になる」など、動詞「始める」の連用形「始めて」とは別です)。

「初」という漢字のイメージに引っ張られて、「始めて」は間違いのように言われることもあるのですが、実際には多くの辞書に載っている表記です。

 例えば『岩波国語辞典 第8版」では「はじめて」の項が【初めて・始めて】から書き出されており、もはやその後の引用をするまでもありません。

 ところが、『三省堂国語辞典 第8版』の場合、「はじめて」の項には【初めて】の表記しか載っていませんでした。『明鏡国語辞典 第3版』も同様の対応で、末尾に“以前は「始」も使った”と解説が加えられています。

 すなわち、副詞の「始めて」は辞書によっては“古風な表記”とされている、ということです。ただ、重要なこととして、それは「間違いである」ということを意味しているわけではないのです。

「今だに」「渡って」……

 似たような例としては「今だに昔のパソコンを使っている」などのように、「未だに」を「今だに」と表記する、というものもあります。この表記も辞書によっては掲載がありませんが、『日本国語大辞典 第2版」などには「今だに」が載っていますし、「始めて」は載っていなかった『三省堂国語辞典」にも、「今だに」は掲載されていました。

 別の例も挙げてみましょう。

「10年に亘って町内会長を務めた」などの「亘って」(わたって。「亙」も使われる)は、「渡って」と書くのは誤り、とする意見があるのですが、こちらについては『明鏡国語辞典」などではむしろ「渡る」のほうで立項されており、“「亘る」「亙る」とも書く”と、「渡る」が優先されています。なお、『新潮日本語漢字辞典」においても、「亘」の項に“「わたる」は広く「渡る」と書く”とありました。

 また、「うずたかい」は「堆い」「うず高い」のどちらなのか。「なげうつ」は「擲つ(抛つ)」「投げ打つ」のどちらか。「ちなまぐさい」は「血腥い」「血生臭い」のどちらか。……実際には、後者の表記「うず高い」「投げ打つ」「血生臭い」が載っている辞書もそれぞれ複数存在します。

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