被害者と犯人の“決して口に出せない関係”とは…「池袋・骨董店主失踪」 奇怪すぎる「遺体なき殺人事件」の全貌
店内にシャレコウベ
その店主・川田実さん(仮名=当時55=)は、贋作騒動が起こる半年も前の82年2月末からぷっつりと消息を絶っていた。捜索願は同店の“番頭”と称されていた店員により、4月1日に池袋署に出されていたが、贋作騒動のカギを握る人物だとして9月から捜査一課も加わり、本格的な捜索が始まることとなる。
池袋にあった「無尽蔵」は一風変わった骨董品店であり、川田さんも個性際立つ人柄だった。客の一人はこう証言していた。
「店の中が何となく薄暗いんです。そして、壁にはスキタイの永久凍土の中から発掘された入れ墨入りの人間の皮が大きな額に入れて飾ってありましてね。かたわらには、人間のシャレコウベや大腿骨で作った笛や太鼓が置いてあり、そういう気味の悪いものにだけ、スポットライトが当たっているんです。そして、その真ん中に、本人がペルシャ猫を抱いて座っているんですよ」
三越で開催された展覧会に出品された品物とそっくりなリュトン杯を、騒動から一年も前に古美術専門誌に掲載していたのが「無尽蔵」だった。
車内から吐き気がするほどの悪臭
しかし、捜査が本格化しても肝心の川田さんの行方は分からないままだった。整理整頓好きだったにもかかわらず、住んでいた部屋は荒れたままで、失踪後に銀行預金を引き出した形跡もない。さらには店員が捜索願を出した際は「外国に行くと言っていた」と話していたはずなのに、国外に出た形跡がない。
そうしたところ「古代ペルシア秘宝展」開催間際であった夏頃に、「無尽蔵」のワゴン車が整備に出されていたことがわかる。担当した整備工は「吐き気がするほどの悪臭がした」と証言。ワゴン車が停まっていた駐車場にも腐敗汁が目撃されたことから、ワゴン車を押収し、ルミノール試験を行ったところ、車からも駐車場からも血液反応があった。“失踪”ではなく“殺人”では、との疑いが強まってゆく。
容疑者の逮捕
警察はこの当時から、一人の男に疑惑の目を向けていた。捜索願を出した「無尽蔵」店員、森本茂也(仮名=当時29=)だ。川田さんの行方は依然として分からないままだったが、警視庁は同年12月4日に森本を横領容疑で逮捕。森本はその後、川田さん殺害を認め、殺人容疑でも再逮捕されるに至った。
生前、川田さんは森本に目をかけていたといわれる。いずれは養子に迎え、店を継がせたい……そう周囲にも語っていた。だが、川田さんが森本に向けていたのは、養子へのまなざしではなかったと、森本は逮捕後の調べにおいて明かした。
森本によれば、事件のあった日、川田さんが肉体の関係を迫ってきたというのだ。
「店を閉めたあと、川田さんから肉体的関係を迫られ、それを拒絶したら川田さんになじられ、店内にあった鉄棒を持ち出して川田さんの頭を数回殴って殺した」
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