被害者と犯人の“決して口に出せない関係”とは…「池袋・骨董店主失踪」 奇怪すぎる「遺体なき殺人事件」の全貌
昨年来、高知県立美術館の絵画の「贋作騒動」が話題となっている。同美術館が所蔵する絵画が「贋作ではないか」と指摘され、同館は調査の上、実際に「贋作である」との結論に達した。そのうえで、9月13日からこの作品「少女と白鳥」を敢えて一般公開することに。同美術館は1996年、ドイツの画家、ハインリヒ・カンペンドンクによるものとして絵画を1800万円で購入し、所蔵していた。ところが昨年、この絵がかの有名なドイツの贋作師、ヴォルフガング・ベルトラッキによって描かれたものであるとの疑いが強まり、京都大学のチームが分析を行っていた。
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贋作をこの目で見られるまたとない機会だが、今から40年以上前の1982年夏に開催された東京・日本橋三越での展覧会では、ホンモノを展示しているはずが、ほとんどの展示品が贋作だったという前代未聞の騒動が起こった。
しかも、騒動はそこでは終わらない。展示品の仕入れ元のひとつと目されていた東京・池袋の骨董品店「無尽蔵」の店主が、騒動の半年前から行方不明になっていたことがわかったのだ。ここから贋作事件が殺人事件へと発展する、まるでミステリー小説のような出来事が現実に起きたのである。俗に言う「無尽蔵殺人事件」を当時の雑誌記事から振り返ってみよう。
【前後編の前編】
【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
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ニセモノばかりの展覧会
「日本で開かれたオリエント美術の展覧会で、こんなにニセモノばかり展示されているのを見るのは初めてのことです」
「これは、中近東・オリエントに関する古代美術の業界を踏みにじる行為です」
開催後、専門家らがこう口を揃えて憤慨した問題の展覧会とは、1982年夏に東京・日本橋三越で開催された「古代ペルシア秘宝展」である。「出品されている47点中、完全なニセモノが44点。残り3点もかなり疑わしい品」(古代オリエント博物館研究員)とも指摘されるほどの騒動を受け、三越側は記者会見を開いた。その席上で「出展品は、販売品ではない」と申し開きをしていたが、実際のところ、開催に合わせて制作されたカタログには「展観即売致します」と三越本店店長による挨拶文が掲載されていた。三越側がどこまで展示品の真贋を把握していたかは定かではないが、仕入れたニセモノを本物として販売しようとしていたことも分かった。
失踪していた店主
当時、岡田茂・三越社長は愛人が設立した会社の商品を大量に買い入れ、彼女に多大な利益をもたらしていたことについても批判が集まっており、かつ、それらが不良在庫として三越の経営を圧迫していた。それゆえ「古代ペルシア秘宝展」の贋作騒ぎにも世間の目が向けられることとなる。
その仕入れ先のひとつが、あるニューヨークの美術商で、展示品には、この人物が東京・池袋の骨董品店店主から購入したものが含まれている可能性が取り沙汰された。俄然、店主に注目が集まるが、その当の店主が実は失踪していたことが判明し、騒ぎはさらに広がっていった。
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