「おねえちゃん浮気してる」ワンオペ育児の完璧パパに義妹からの密告 家庭を守りたい夫の“悲しき計算”とは

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トラブルを恐れるようになった、幼少期の風景

 彼が育った家庭は、父方の祖父母と両親、兄と妹の7人家族だった。祖父は酒癖が悪く、酔うと祖母に暴力をふるうこともあったらしい。その祖母は母に厳しかった。弱いところに暴力は流れていく。哲朗さんは、台所で祖母が母を叩いているのを見たことがある。父もその場にいたのに、自分の母親を止めようとしなかった。

「ばあちゃん、やめろと僕が飛び出したら父に止められた。母の泣き声だけを覚えています。あの光景は大人になっても忘れられなくて、祖父母と父を許せないという思いはずっと残っていた」

 だから家族が揉めることに極端に恐怖感があった。自分が寛容でいれば揉めることはない。そういう選択をするしかなかった。一方で、それは妻のしたことを認めないし、謝るチャンスも与えないということでもある。

「恋をしているのか身体の関係だけなのかはわからないけど、とにかく妻が他の男と関係をもっている。そしてその関係が終わった。それは僕には関係ないことだから、妻自身が気持ちをちゃんと処理してほしいとは思いましたね。聞く必要もない」

子どもに感じた「ルミの血」

 とはいえ、自分がそれについて言及しないし責めることもないと妻にはわかってほしかった。そこで結婚15年だったこともあり、たまにはふたりでデートしようかとちょっといいレストランを予約した。

「『パパとママ、ふたりでデートに行ってもいいかな』と言ったら、子どもたちはヒューヒューと騒ぎながら喜んでくれた。息子が『僕たちの気持ち』と1万円くれたんです。やめてくれよと思いました。子どもからお祝い金をもらうなんて……。『何を買っていいかわからないし、ふたりで使って』と」

 気持ちがうれしくて涙ながらに受け取ったが、一方で「商人の子だなあ」と哲朗さんは妙な感慨をもった。普通ならお金を出し合って何か買うだろう。それが的外れなものであっても、子どもたちが話し合って買ったプレゼントを喜ばない親はいない。だが彼らは現金をよこした。そこに「ルミの血」を感じたと彼は言った。

「僕はやっぱり商売人にはなれない。実家は農家ですしね。だから何だというわけではないけど、ルミとの明確な違いがわかった瞬間でした。そういえばルミは子どもたちに対して、お金の使い方にはうるさかった。ルミの親戚も商売をしている人が多いし、代々農家のわが家とは何かが違うんだろうなと興味深かったですね」

 それは違いがわかっても対処していける、うまくやっていけるという自信につながったのかもしれない。

 実際、家庭はその後、ほとんどもめごともなかった。家族も適度な距離感を保ちつつ、子どもたちは大人への階段を上っていった。そう、「あの日」までは。

 ***

 浮気を知りつつも、家庭が揉めることを恐れ、黙認の姿勢を貫くことにした哲朗さん。だが彼の心に芽生えた「隙間」は広がり、それが思わぬ事態をもたらすことになる……。【記事後編】で、彼の言う「許されがたい不倫」を詳しく紹介する。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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