「おねえちゃん浮気してる」ワンオペ育児の完璧パパに義妹からの密告 家庭を守りたい夫の“悲しき計算”とは

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“イクメン”になった哲朗さん

 ルミさんは「私、恋愛なんてしている暇はないの。結婚する気がある?」と言った。もちろん、結婚しようと話はトントン拍子に進んだ。哲朗さんは次男だし、長男はもうじき結婚するため「タイミングがよかった」のだという。一方のルミさんはひとりっ子で、母と一緒に店を経営していたが、母は仕事をやめたがっていた。それもまたタイミングがよかった。

「それでルミと夫婦で店を経営していこうということになって。ただ、僕は経営については素人だから、そこから勉強しましたよ。ルミはものすごく活動的で情熱的で、経営を学問ではなく肌感覚で知っていた。そこが強みだなと思いながら、僕はアシスタントと経理面を担当しました」

 27歳の終わりに息子を、29歳、30歳で立て続けに娘を授かった。妻のルミさんは「子どもを産めば産むほど元気になるわ」とろくに育休もとらず働いていた。子どもが小さいころは哲朗さんがほぼワンオペ状態で育児をこなしていた。

「我ながら、子育ては向いてるなあと思いました。日々、子どもたちと接しているのが楽しくてたまらなかった。ルミまで『あなた、保育士になればよかったのに』と笑っていた。自分でもそう思ったくらい。3人とも、初めて立ったところをちゃんと目撃しました。ルミはまったく見ていないから、録画して見せたら手を叩いて喜んで『私にはできないわ。てっちゃんは完璧なパパね』と」

 子どもたちが大きくなっていく過程でも、しつけや教育はほぼ哲朗さんが担った。ルミさんは仕事がメインで、一般家庭とは逆だったが、ふたりともそれが居心地がいいと納得していた。

「まあ、田舎といえば田舎なので周りからはいろいろ言われましたが、ルミと僕が納得していれば問題ない。双方の両親がうるさかったけど、僕らの生き方だからとやんわり拒絶、誰の言うことも聞きませんでした」

 妻とのパートナーシップは強力だし、自分だからこそルミの夫がつとまるのだと哲朗さんは自信をもっていた。

 ただ、40代に入ったころ夫婦の間に“危機”があった。妻が浮気したのだ。

妻の言葉に怒りを覚えた哲朗さんだったが…

「あるときルミの妹から連絡があって、『おねえちゃんが浮気してる。知らせていいかどうか迷ったけど』と。義妹はルミと若い男性がホテルに入るのを目撃したんだそうです。とりあえず義妹に口止めしました。ルミに確認しようかと思ったけど、僕は言い出せなかった。義妹からはじゃんじゃん連絡がくる。『これは夫婦の問題だから、少し放っておいてほしい』と言ったら、義妹はへそを曲げて本人に『お義兄さんも知ってるよ』と言ったそうです。そうやってことを大きくする人間がいるのは迷惑だった」

 ルミさんは夫が知っているとわかっていながら、関係を続けていたようだ。それでも「実害」がない限り、哲朗さんはなにも言わなかった。彼にとっての実害とは、外泊するとか子どもを邪険にするとか、家庭に背を向けるとか、そういったことだ。ルミさんは週に1度くらいは不審な遅い帰宅があったものの、それ以外は今まで通りだったし、休日は積極的に子どもたちとも関わっていたから、哲朗さんはわざわざ揉めるような話を持ち出すつもりはなかった。

「1年くらいたったころですかね、気づいたら妻はごく普通に戻っていた。不審な遅い帰宅もなくなりました。しばらくたってから、『私、この家庭があってよかった。あなたがいてくれてよかった』と突然、ポツリと言ったんです」

 どうしたんだよ急にと言ったら、ルミさんは「何か聞きたいことはないの?」と言いだした。浮気に言及してほしいのかと感じた瞬間、哲朗さんの中に怒りがわいてきた。あ、自分は妻の浮気を容認していたわけではないんだと、初めて自分の気持ちに気づいたという。知らず知らずのうちに感情を封じ込めていたのだろう。家庭を維持するために、子どもたちを傷つけないために。

「怒りを鎮めるのに10秒くらいかかりましたが、次に思ったのは、ここで寛容さを見せたほうがいいという計算でした。揉めたくなかったんですよ。とにかく揉めたくなかった」

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