売上高7800億円! アイリスオーヤマはなぜ中国製並みの安さで白物家電を売れるのか 急成長の秘密に迫る

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若手のプレゼンで商品化

 アイデアマンの健太郎氏が率いてきたアイリスは顧客の声に耳を傾けながら、それをどんどん商品に変えていく。その原動力となっているのが、健太郎氏が社長になってからずっと続けている週に1度の「新商品開発会議(通称・プレゼン会議)」だ。

 毎週月曜日に開かれるこの会議は、役員が一堂に会する経営会議とは大きく趣を異にする。健太郎氏の長男で現社長の晃弘氏(47)を筆頭とする経営陣、各部門長、企画担当、開発担当の幹部を前に若手がプレゼンする。1日の提案件数は50~60件に及ぶ。

 機能、デザイン、価格などあらゆる角度から提案を精査し、その場で晃弘氏が合否を決断する。会議には健太郎氏も参加するが、権限は晃弘氏に委譲しており、聞いているだけで口は挟まない。関係部門の担当者は全員がその場にいるので、社長が「Go」を出せば即、商品化だ。

「売上高に占める新商品売上高の割合を5割以上にする」

 これが健太郎氏の時代に定めたアイリスの「黄金律」である。

「新商品」は「発売から3年以内の商品」と定義される。アイリスは衣装ケースから白物家電まで実に3万点の商品を取り扱っているが、その中身は毎年1000点ずつ入れ替わる。すさまじい新陳代謝だ。実際には売上高の6割が新商品で、スピードはさらに速い。

 こうして消費者の声をカタチにした商品は工場で作られてから1日で売り場に並ぶ。メーカーベンダーを自負するアイリスの場合、すべての工場が物流機能を備えており「巨大な自動倉庫の中に工場がある」(健太郎氏)。北は北海道から南は九州の鳥栖工場まで、それぞれ半径300キロメートルを「1日配送圏」として、10カ所の「倉庫兼工場」で全国をカバーしているのだ。

ロボット開発も

 メーカーベンダーの実力は、今年の「コメ不足」でも遺憾無く発揮された。政府が放出した備蓄米のうち1万トンを割り当てられるとトラックを仕立てて貯蔵場所にコメを引き取りに行き、自社工場で精米した後、自前の物流網で消費者の元に運んだ。多くの備蓄米が複雑な物流網の途中で目詰まりを起こす中、アイリスは割り当てられた1万トンを3カ月で売り切った。

 家電大手をはじめとする大手製造業のプレゼン会議は多くて月に1回。それを毎週開くのは「聞いて決めるわれわれの方も大変」(健太郎氏)だが、新陳代謝は4倍速になる。アイデアを出す社員の平均年齢は大手の45歳に対し、アイリスは31歳。小売りの現場に近い若い社員たちが生活者の視点でどんどんアイデアを出し、晃弘氏ら経営陣がそれを即断即決していく。

 すさまじいスピードの新陳代謝で体の細胞を入れ替えながら、時代のニーズに合う形に姿を変えていく。代謝が遅く、自らを変えられなかった恐竜は絶滅し、生き延びたのは自らを変化させて環境に適応した哺乳類だった。

 今、日本の製造業を悩ませているトランプ関税にも、哺乳類のアイリスは瞬時に適応する。関税が上がる製品は中国や日本の工場から、米国の4工場に生産を移して収益を確保する。こうして刻々と変化する世界経済の動向についていく。すでにアイリスが売上高8000億円近い大企業であることを考えれば、その敏捷性は特筆すべきものだ。

 健太郎氏が晃弘氏に社長の座を譲ったのは2018年。晃弘氏は「新商品比率5割以上」など健太郎氏の路線を踏襲しつつ、M&Aや外部企業との連携など、父親の代にはなかった経営に取り組み、社長就任時に4500億円だったグループの売上高を7年で8000億円近くにまで増やした。

 2020年にはソフトバンクグループのロボット開発会社と提携して法人向けの清掃ロボット事業に参入。これまでに6000社が導入した。2023年には東京大学発のロボット開発ベンチャー、スマイルロボティクスの全株式を取得し、独自のロボット開発にも乗り出している。

 日々の経営を晃弘氏に委ねた健太郎氏が目下、会長としてエネルギーを注いでいるのが「コメと水」。これらの事業を健太郎氏は「ジャパン・ソリューション」と呼ぶ。

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