売上高7800億円! アイリスオーヤマはなぜ中国製並みの安さで白物家電を売れるのか 急成長の秘密に迫る

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価格を先に決める

 ホームセンターとのつながりを生かして発光ダイオード(LED)照明事業に参入したのが2009年。当時、パナソニックや東芝が作るLED照明は6000円前後で売られていたが、健太郎氏は「2500円で売れるモノを作れ」と号令し、中国・大連の主力工場で設計の見直しや内製化を進めて2500円のLED照明を発売した。

 2500円という値付けの根拠は、家庭の電気料金。1日に5.5時間という平均的な使い方をすると、年間2800円、電気料金が安くなる。白熱電球は1個100円だが、LED照明に変えても「1年で元が取れる」と売り込んだ。LED照明の寿命は10年とされるので断然、お得だ。家電大手はあの手この手で新参者をつぶしにきたが、品質と価格でこれをはねのけ、国内の家庭用LED照明でトップシェアを獲得した。

 通常のメーカーは製造原価+販売管理費+利幅=小売価格と足し算で考えるが、アイリスの場合は小売価格-利幅-販売管理費=製造原価と引き算で考える。市場の声に耳を傾けて、消費者が買ってくれそうな「値ごろ価格」を先に決め、製造原価を合わせるのだ。

「足し算だとエンジニアは余分な機能をいっぱい付けるので製造原価が上がってしまう。これがプロダクト・アウト。ユーザー・インのわれわれは消費者が値ごろだと感じる製品しか作らない」と健太郎氏は言う。

「今週の売り上げが来週のオーダー」

 LED照明市場で新参のアイリスがパナソニックや東芝と火花を散らしていた2010年代の初め、筆者は健太郎氏の随行で大連工場を取材した。驚いたのが生産品目の数。アイリスのマザー工場である大連では、衣装ケースやLED照明から、後にコロナ禍で大注目を浴びることになる不織布のマスクまで実に1万点(現在は1万4000点)の製品を作っていた。

 工場のバックヤードを通った時、うずたかく積まれた直径2~3メートルの線材(針金状の鉄)のロールが目についた。「あれは何か」と尋ねると、健太郎氏が教えてくれた。

「細いやつは釘、太いやつはネジに加工する」

 大連工場には部品の在庫がほとんどない。必要な時に必要な分だけの部材を自分たちで内製してしまうからだ。別の工場の裏には枯れ枝が山と積まれていた。チップにしたものを固めて圧縮し、小学校に納める机の天板を作るのだと聞き、恐れ入った。ビス1本から倉庫で使う棚まで内製化すると何が起きるか。

「外部調達が多いとコスト抑制が難しいが、自前で作れば最初に適切な店頭価格を設定し、さかのぼって生産コストを決めることができる」(健太郎氏)

 プラスチックから鋼材、木材まであらゆる素材を自在に加工するアイリスの工場は、市場の要求に合わせて生産品目を自在に変化させていく。衰退が続く「日の丸家電」とアイリスの違いは、純然たる「メーカー」である家電大手に対し、アイリスが家具のニトリやアパレルのユニクロ(ファーストリテイリング)と同じ「メーカーベンダー」であることだ。健太郎氏は言う。

「ホームセンターやスーパーと直接取引しているので、POS(販売時点情報管理)で全国のトレンドが手に取るように分かる。アイリスでは『今週の売り上げが来週のオーダー』ですわ」

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