「タカイチだけはイヤ」と叫ぶ韓国 コイズミの「エセ保守」騒動に一喜一憂?――鈴置高史氏に聞く

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ウクライナの道も敢えて

――同盟なき多国間安保論は危険ではないのですか?

鈴置:危険極まりありません。ロシアから公然と侵略されたウクライナがそのいい例です。ウクライナは同盟を持たず、NATO(北大西洋条約機構)にも加入できず、周辺大国の好意と話し合いによってのみ侵略を防ぐ、というお寒い状態でした。

――ではなぜ、李在明政権は危険な道を歩み始めたのでしょうか。

鈴置:どんなに猫を被っても結局、米国から見捨てられると悟ったからと思われます。「トランプ政権から『共産主義者』と見切られた李在明、いつまで猫を被るのか――鈴置高史氏が読む」で指摘した通り、米国は「中国寄りの韓国」をまともな同盟国として扱わなくなりました。

 李在明氏が大統領に当選した際のトランプ政権の態度は異様でした。普通は直ちに発表するコメントも出さず、記者から求められてしぶしぶ出したコメントには「中国の介入と影響に対し米国は懸念し、反対する」などと、韓国を中国の属国扱いするくだりもあったのです。

 韓国政府は、8月25日の米韓首脳会談がトランプ大統領から一方的に罵倒される場にはならないか、極度に恐れていました。そこで李在明大統領は「ピースメーカー」などと必死でおべんちゃらを繰り広げ、何とか罵倒は逃れました。

 ただ、トランプ政権は韓国に厳しい要求を突き付けました。一方的に引き上げた関税を少しでも下げて欲しいなら、3500億円の対米投資を実施しろ、と求めたのです。

孫悟空の輪

――対日要求と同じ構造ですね。

鈴置:その通りです。日本も「トランプ大統領の思い通りの投資をしないと関税は元に戻す」という無茶苦茶な要求を呑んだのですから、石破政権は大きな禍根を残しました。

 トランプ政権は対米投資に応じないといった経済摩擦に加え、台湾有事の際に軍事協力を拒否すれば、この合意で日本を締め付けられるのです。孫悟空が頭にはめられた輪のようなものです。

 李在明政権は、この輪だけははめられまいと必死でトランプ政権に抵抗しています。このため韓国から米国に乗用車を輸出した際の関税は25%のまま。

 日本やEU(欧州連合)が15%で合意しましたから、米国との交渉が早急に妥結しなければ韓国の自動車メーカー、韓国経済は大打撃を被ります。

 日本人の多くは台湾有事の際、米軍とある程度の軍事協力は必要と考えています。一方、韓国では保守派を含め、それはまっぴらごめん。「日本のような危ない合意を避け、25%の税率を甘受しよう」との声が高まってきました。

石破首相の最後っ屁

――李在明政権はピンチですね。

鈴置:表面的には。ただ、願ってもないチャンスでもあるのです。韓国は関税交渉を通じ、台湾有事の際にも米国との同盟を維持するのか、選択を迫られた。保守も強引なトランプ政権を見て反米感情を高めた。

 李在明政権からすれば、保守からの反発なしに同盟の希薄化を実現できる状況になったのです。そこで大統領はこの機を逃さず「在韓米軍を撤収したいならしろ」「米韓同盟が無くとも多国間安保体制で乗り切れる」とつぶやき始めたのです。

 9月30日、釜山で日韓首脳会談が開かれます。石破首相が最後っ屁で余計な譲歩をしないか、懸念する専門家が多い。そもそも「謝罪好き」のうえ、李在明政権が早くも本性を現わしたことに気づいていないようだからです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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