子育て終了直後に妻から渡された「一枚の紙」ですべて終わった…それでも「謝罪」を求める61歳夫の往生際
3年前の「本気になった」女性
次女が高校生になったころ、今から3年ほどまえのことだ。勇太郎さんには本気になった女性がいた。相手も既婚者だったから人知れずつきあっていたのだが、「どうしても一緒になりたい」と泣いてすがられた。彼自身は、離婚して結婚するという「めんどうなこと」はしたくなかったが、彼女の気持ちは受け入れたかった。
「一緒に生活することがいちばん強い愛情とは限らないし、お互いに今の結婚を解消するほうが今後の人生、よほどリスクが高い。一生つきあっていこうと説得しました。好きだからといって、家庭を壊して再婚するのが潔いとは僕には思えなかった。彼女もわかってくれたみたいでしたが、その直後、彼女の夫から呼び出されて300万円脅されて取られました。警察に行くことも考えたけど、大ごとになるのが嫌だったから、弁護士を立てて一筆書いてもらって、僕自身の貯金を渡しました。もともとなんだかおかしいなと思っていたんですよ、彼女の件は。30歳も年下で、職場に派遣で来ていた女性なんです。なぜか最初からやけに僕に懐いて。かわいくて素直な人だったから、心許してしまった……」
家庭を大事にしていたはずの勇太郎さんだが、このときはやけに脇が甘い。それにはやはり自分の年齢が関係していたという。「老い」を意識したとき、彼を救ってくれたのは若い女性の存在だったのだろうか。自分にはまだ恋ができる、セックスもできる。そこに活力を見いだそうとしたのだろうか。
「情けないですよね、若い女性に好かれたら自分もそれに釣り合う若さがあるんだと信じてしまった……」
妻にバレないよう処理できたと思っていた。
「これだけは見せておくわ」妻が渡してきたものは…
離婚を切り出されてからも、妻と次女との生活は続いていた。長女はすっかり自立しており、親とは距離をとっているようだ。
「半年後、次女は留学しました。もともと決まっていたことです。妻はそれを見越して離婚を切り出したんでしょう」
次女が旅立つまではと妻も思っていたのだろう。離婚を切り出したまま、あとはなにも言わなかった。だから勇太郎さんは、離婚は妻の一時的な気の迷いかと思い込んでいた。
「次女が旅立ったその日、ふたりで空港まで送っていって帰ってきたら、妻が、離婚はすでに弁護士に頼んでいる、私もこれから家を出る、あとは弁護士と話して、と。『でもせめてこれだけは見せておくわ』と妻が渡してきたのは、一枚の紙。僕の不倫の履歴書でした。ちゃんと“藤尾勇太郎の不倫の履歴書”とタイトルがついていた。悪い冗談だと思ってちらっと見たら、何年何月何日に、夫が誰それと関係をもった、そのときの様子はこうだったと詳細に記されていた。妻は僕の不倫日記を書いていたみたいです。携帯をもつようになってから、ずっと盗み見られていた。僕の人生はずっと監視されていたわけです」
彼はそのとき、「ああ、バカバカしい」とため息とともに漏らしたそうだ。自分の人生は何だったのか、こんなふうに他人に監視されていたなんてとつぶやくと、「そうね。あなたにとって私は永遠に他人なのよね」と言われた。
[3/4ページ]

