祖父の代からシェイクスピア一筋 小田島創志氏が語る「戯曲翻訳家」の世界
祖父の代から3代にわたってシェイクスピア作品に携わる、戯曲翻訳家で演劇研究者の小田島創志(そうし)氏(34)による新翻訳舞台が話題だ。
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「精神的に逃げ場がない作業」
小田島氏の祖父は、個人でシェイクスピア作品を全訳した演劇評論家の小田島雄志氏(94)で、父は翻訳家の顔も持つ早大教授の小田島恒志氏(63)。今月20日から、水戸芸術館で翻訳を担当した舞台「ロミオとジュリエット」が上演される創志氏に話を聞いた。
「母の則子も翻訳に携わっており、両親の共訳作品も多いんです。翻訳に関する話題は食卓をはじめ、日常的なもので、作品について話し合う両親は、子どもの目にも楽しそうに見えました」
創志氏は幼い頃から両親と舞台を観劇していたそうで、進学先の東京大学では英文科を専攻した。大学院の修士課程では2005年にノーベル文学賞を受賞した、英国の詩人で劇作家のハロルド・ピンターの研究にいそしんだという。
「ピンターの戯曲を読み、よく分からないながらも、純粋に作品を“面白い”と感じたんです。ところが研究は行き詰まり、論文もうまく書けなくなって……」
苦悩が続く中、演劇関係者から戯曲の粗訳を依頼されたという。粗訳は、演出家たちが上演する作品を選定する際に使う参考資料。地味な仕事ながら、良しあしは極めて重要とされる。
「粗訳とはいえ、すべての登場人物を完全に理解しなければ作業は進まない。せりふの意味や発言者の心情を“理解できた”と確信しなければ、的確な日本語にはできないんです。精神的に逃げ場がない作業でしたが、数々の登場人物と正面から向き合えた。一気に演劇の世界への興味が広がりましたね」
翻訳に費やす時間は1日10~12時間
2018年には、自身が米国小説の舞台版を翻訳した「受取人不明 ADDRESS UNKNOWN」が、東京・赤坂で初めて上演された。
「父は本気か冗談か“われわれの仕事を取らないでよ”なんて言ってました。気兼ねなく相談できる両親は、すごく頼りになる存在です」
現在は共立女子大や武蔵大など、三つの大学で英文学の非常勤講師を務める。多忙な毎日だが、翻訳作業は教員生活と両立させているそうだ。
「作品世界に没入したいので、翻訳には1日当たり10~12時間ほど費やします。どこか、好きなテレビゲームにのめりこむ感覚に似ているかもしれません」
作業は1作品当たり、1週間から10日にわたるが、
「そういう生活が自分には合っている。推敲を重ねて翻訳を終えた作品を演出家に届けても、そこで作業が終わるわけではありません。舞台化に向けて演出家と細かな擦り合わせや手直しがあるからです。演者が椅子に座ったまま台本を読み合う“テーブル稽古”にも参加して、彼らの意見を基に再修正を施すことも珍しくないんですよ」
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