30年「世界遺産になれない」彦根城 本当はアピールすべき“絶対的な価値”とは

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暫定リストに載ってすでに30年以上

 彦根城(滋賀県彦根市)を訪れると、公共施設や店舗の前に「彦根城を世界遺産に」と書かれた旗が掲げられ、ポスターが貼られているのをいくつも見かける。世界文化遺産への登録に向け、地元が必死なのが伝わってくる。だが、叶わなかった。8月26日、国の文化審議会の世界文化遺産部会が開催され、2027年に登録をめざす世界文化遺産の候補として、彦根城をユネスコに推薦することを見送ったのである。

 ユネスコの世界遺産委員会に推薦書を提出して審査してもらうためには、事前に「暫定リスト」に記載される必要がある。その点、彦根城は1992年からリストに載っている。逆にいえば、30年も経っても登録されないままだなのだが、今回、地元自治体の期待は大きかった。

 その証拠に、彦根市のホームページには、「彦根城世界遺産登録へ大きく前進!」と題した昨年11月22日付の報告が掲載されており、そこにはこう書かれている。「市民の皆さんの中にも、『本当に彦根城が世界遺産に登録される日が来るのだろうか』と思っている人もいるのではないでしょうか。彦根城は今年10月にイコモス(註・世界遺産委員会の諮問機関である国際記念物遺跡会議)から『世界遺産登録の可能性がある』という事前評価を受けました」。

 それだけに落胆も大きかったようだ。とはいえ田島一成市長は、あらためて2028年の登録をめざす考えを明らかにし、会見で「あと一歩なので努力を重ねたい」と話している。では、推薦を見送った文化審議会が彦根市に突きつけた課題とはなんだったのか。

「大名統治システム」が鍵だというが

 彦根市のホームページに記されていた「事前評価」という語。これは国が世界遺産の推薦書を提出する前に、イコモスから技術的および専門的助言を受ける制度のことだ。

 滋賀県や彦根市は彦根城について、「日本における徳川(江戸)時代の地方政治拠点として機能した、建築及び土木の傑出した見本であり、大名統治システムを有形遺産で示すもの」と主張し、イコモスからも一定の評価をされた。一方で、「単独の資産で大名統治システムを完全に表現できているかどうか」「何によって大名統治システムが日本列島における長期間の安定と繁栄とを可能にしたのか、(中略)といった大名統治システムの運用方法について説明を充実させることが必要」などと、課題も提示されていた。

 そして文化審議会も、イコモスが示した課題を投げかけた格好だ。いわく「一定の範囲の城を抽出することについての妥当性、客観性に関してイコモスから指摘を受ける可能性がある」「大名統治システムの鍵になる概念について説得的な根拠が示されていない」。

 ただ、こうして記すだけでは、そもそも「大名統治システム」とはなにを示しているのかわからないだろう。まず、彦根城の成り立ちと、現在、なにが残っているのかを確認しておきたい。

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