30年「世界遺産になれない」彦根城 本当はアピールすべき“絶対的な価値”とは

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彦根城独自の価値こそ強調すべき

 たしかに、彦根城には「大名統治システム」がよくわかる遺構も数多い。藩主の屋敷であった楽々園と、その広大な庭園である玄宮園は、各地の城郭に御殿建築がほとんど残っていないなか、貴重な遺構である。庭園もまた、大名の生活上はもとより、外交上も重要な施設だった。

 また、中堀の内側には西郷屋敷長屋門や脇家屋敷、木俣屋敷など、重臣の屋敷のいくつかも部分的に残り、重臣が城に周囲に集住していた様子がいまに伝わる(脇家屋敷はいまにも倒壊しそうで、早急の修復が必要だと思うが)。

 つまり、天守や櫓、門などは、石垣や堀と一体化した防御のための建造物だが、彦根城はそれ以外に、御殿や馬屋、重臣屋敷など、当時の大名の統治システムを支えていた遺構も数多い。それはまちがいない。

 だが、それだけでは、彦根城のせっかくの魅力の一部しか語っておらず、もったいない。元来は軍事を目的に、いわば国家事業として築かれ、急いだために、日本でしかできない「移築」という技を駆使して築かれ、それが上手く残って、以後の「大名統治システム」に組み込まれた――。たとえば、そんなストーリーを説いたらどうなのだろう。

 繰り返すが、「大名統治システム」は幕藩体制下のすべての城郭に共通するものだった。それがよく残るというだけでは、彦根城独自の価値評価にはつながりにくい。「独自の価値」がある城なのだから、自信をもってそれを説いてほしいと思うのだが。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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