障害者施設のスタッフが「大切なご家族を入所させる施設は、自宅から少し距離があったほうがいい」と語る深い理由

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 前回は、「高齢者介護」の現場について紹介したが、もう1つ、介護福祉の世界で特筆しておきたい現場がある。「障害者支援」だ。同じ福祉施設であっても、求められる作業やスキルには大きな違いがある。

 今回は、そんな障害者福祉の現場と、過去に起きた凄惨な事件から垣間見える、ある思想の危うさについても考察していきたい。

障害者施設の人手不足の要因も「少子高齢化」

 前回でも述べたとおり、過酷な労働環境が常である他業種と同様、介護の世界も深刻な人手不足に喘いでいる。

 その大きな要因になっているのは「少子高齢化」だ。

 日本は2025年に団塊の世代が75歳を迎え、国民の約5人に1人が後期高齢者となり、要介護者の数は年々かなりの勢いで増加。介護の世界は、少ない若者が文字通り“高齢者を支える現場”になっている。

 しかし、だからといって高齢化によって人手不足に陥っているのは「高齢者施設」だけではない。「障害者支援施設」においても、人手不足の要因は「高齢化」だ。

 高齢になると必然的に身体機能は低下し、身体の不自由を訴える人は多くなる。さらに、高齢化に伴い重度の認知症を発症すると、精神障害が認められることもあるため、必然的に高齢化が障害者数を増やす要因になるのだ。

 令和7年版「障害者白書」(内閣府)によると、「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3区分について行った各種調査から推計される障害者数の概算は、身体障害者(障害児含む、以下同じ)423万人、知的障害者126万8千人、精神障害者603万人で、やはり高齢者が多いのは、身体障害者と精神障害者だ(身体・知的障害者については2022年10月1日確定の総務省「人口推計」を、精神障害者については23年10月1日現在の同資料を用いて算出)。上に引用した図表は年齢階層別の在宅身体障害者数の推移である。

受け入れが進む外国人労働者

 しかし、福祉の世界は過酷な労働環境や低賃金などの問題から、成り手がなかなか増えない。こうした人手不足の打開策として、国が現在積極的に受け入れているのは、やはりと言うべきかここでも「外国人労働者」だ。

 外国人労働者受け入れの是非については次回以降で詳しく考察していこうと思うが、現在、日本の介護業界には5万6000人ほどの外国人労働者がおり、その数は今後も増えていくことは確実だ。

 外国人労働者の受け入れにおいて、世間からよく聞こえてくるのは「意思疎通がうまくいかない」という不安だ。とりわけ、こうした福祉の業界で相手との言語のコミュニケーションが取れないのは、大きな壁になりそうなところ。

 しかし、ある障害者施設の職員は、こう話す。

「自分の施設にも3名の外国人労働者がいますが、これまで利用者さんとトラブルになったことは一度もありません。言葉によるコミュニケーション能力ももちろん必要ではありますが、障害者福祉の現場には、コミュニケーションが難しい利用者さんが多い。現場でより大事になるのは、アイコンタクトや表情を読む能力だと思います。そして何より、ひとりひとりの“習慣”を知っておくことのほうが重要なのです」

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