障害者施設のスタッフが「大切なご家族を入所させる施設は、自宅から少し距離があったほうがいい」と語る深い理由

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障害者支援と高齢者介護の違い

 この「ひとりひとりの“習慣”」を知ることは、どの現場においても重要にはなるが、こと障害者支援においては特に重要になる。その理由は、施設に集まる利用者の障害の種類や等級は様々で、それぞれの障害に起因する「クセ」や「こだわり」が全く異なるからだ。

 そのため、職員は利用者それぞれの身体的健康状態を把握し、適切な身体ケアを提供することが求められる。例えば自閉症の人は、強い「こだわり」を持っていることが多いという。

「食事介護の時、いつもと食器の位置が違うと、それをこちらが直すまで食べ始めてくれない人などがいます」

 また、障害者施設の場合、高齢者施設よりも「力」や「体力」が必要になることが多いという。利用者には、高齢者だけでなく若者がいるためだ。

 ある施設では、夜中に若い利用者が壁をぶち抜き、中から断熱材などを引き抜いてしまったこともあるという。その一方、身体障害者の場合は、力をうまく入れることができないケースもある。

「力が入らない身体は、抱き上げる時に非常に重く、介護する職員は体力を使うんです」

やまゆり事件を肯定化する怖さ

 前回紹介した通り、介護職員は利用者からのハラスメントを受けることが多い一方、ストレスの多い労働環境では、逆に職員による利用者へのハラスメントや虐待が問題になったり、時に殺傷事件が報じられたりすることもある。

 なかでも世間に大きな衝撃をもたらしたのが2016年7月、神奈川県立の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、入所者など45人が次々に刃物で刺された殺傷事件ではないだろうか。

 同事件では、入所者19人が死亡、職員2人を含む26人が重軽傷。逮捕された植松死刑囚は、やまゆり園に3年以上勤務していた、逮捕当時26歳の元職員だった。

 犯行の動機は、「意思疎通ができない障害者に、生きる価値はない」という選民思想によるものだ。

 一般的に考えてもこれは納得し難い思想だ。人が人の命の重さをジャッジする権利は全くない。

 しかし、昨今のSNSを分析してみると、犯人と同じような思想を発言するアカウントを度々見かけることがあり、その度に言葉に表せないような不気味さと不快感を抱く。最近では同死刑囚に同情を寄せる若者の声も少なくない。

 余談だが、筆者の父も障害者手帳を持っている。

 先天的なものでも、身体的な介助が必要なわけでもないが、50代前半で発症したくも膜下出血が原因で「高次脳機能障害」という後遺症が残り、新しい記憶を脳に留めておくこと、感情をコントロールすることが難しくなった。以降、一人で出歩ける範囲はせいぜい半径500メートルくらいとなり、今後もひとりでは生きていくことができない。

 そんな父が倒れてすぐのころ、同じことを2分おきに聞く彼に対して、代わりに会社の経営を任されていた筆者はある日、強い口調でついこんな言葉を放ってしまった。

「何回言えば分かるんだ。もう何度も同じことを聞くな」

 その時、父から返ってきた言葉を、今でも忘れられないでいる。

「俺だって好きでこうなったんじゃないわい……」

 忙しさや“しつこさ”が続くと、障害者の言動に目や耳を向けなくなってしまう。

 なぜ暴れるのか。なぜ毎度同じことを聞いてくるのか。当時の私には、彼の言葉を1度すら聞く余裕がなくなっていた。結局、障害者である父と意思疎通をしようとしなかったのは、私のほうだったと、父の言葉で気付かされたのだ。

 健常者のようにすんなり答えは出ないかもしれないが、実はそこに耳を傾け目を向けることこそが、最も早く、そして互いが最も満足できる結果になるのだと思う。

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