夜の路上で“赤ん坊を抱いたあざだらけの女性”を助けたら…45歳夫が「DV被害妻」と続ける奇妙な関係
気持ちがささくれ立ち…
気にしていた妻子は、自分がいなかったことでよりより人生を送ることができたのかもしれない。そう思うと自分を嘲り笑うことしかできなかった。
「なんというのか、それで気持ちがささくれ立ったというか、すごく寂しくなって響子に連絡をしてしまいました。響子は僕をバツイチの独身だと思っている。僕から独身だとは言っていないんですが、結婚しているのと聞かれたので、昔ちょっとねと言ったら、離婚したと思い込んでいた。それを訂正しなかったのは自分のずるさです」
響子さんと会い、食事をしたあと、このまま帰るのは嫌だと思った。おいしいコーヒーがあるから飲んでいかないかと誘った。
「彼女は迷っていましたが、少しだけならとやってきました。『懐かしい。私が転がり込んだところから人生が変わった。あなたのおかげで』と彼女が言った。人生を変えたのはあなた自身だよと言いましたが、ふたりの間の空気が今までとは変わった。僕は思わず、響子を抱きしめました。彼女は抵抗しなかった。静かにソファに押し倒したとき、小さく『怖い』と言いました。そうだよねと離そうとしたら、離さないでと言われて。ずっと抱きしめているだけで行為には及びませんでした。なんだか彼女の恐怖が伝わってきたので」
久々の真知さんは…
だがそれ以降、響子さんはさらに賢哉さんに心を開くようになった。少しずつ身体の接触も増えていった。子どもを連れて3人で食事をすることもあった。ゆっくりとふたりの関係が濃くなっていく。今まで感じたことのない満足感があった。
「一緒に住もうかと彼女に言ったのは、子どもが5歳になったころです。彼女はうれしそうな半面、ちょっと怪訝な顔もしたので、『結婚する?』と聞いたら満足そうな表情になりました。子どももはしゃいでいた」
今さらだけどと、息子を介して真知さんに連絡をとった。真知さんは「離婚ね。考えておくわ。それはそうとうちの会社、見てくれない?」と言った。
「彼女の会社に行ってみて、びっくりしましたよ。新しくてきれいなビルのワンフロアが会社になっていて、真知はゆったりと自信に満ちた感じだった。20年ぶりくらいに会った妻が、あんなに堂々としていたら、こっちはビビるしかなかった」
妻はにっこりと笑って「離婚はまだしないでおくわ。今までしなかったんだから、これからもしなくてもいいじゃない」と言った。
「こっちが再婚したいからだとは言えなかった。『お互いに最後は看取りあう仲になれるかもね』と真知が言ったんですが、僕は思わず『復讐のつもり?』と聞いてしまった。真知は鋭い目つきで僕を見ましたが、『そんなつもりはないけど』と。怖かった」
それから3ヶ月たつが、響子さんには本当のことを言えていない。一緒になるなら中古のマンションくらい購入したいが、結婚が成立しないなら響子さんはおそらく別れを口にするだろう。法律に訴えれば離婚は成立する可能性が高いが、裁判になるだろうから時間がかかりそうだ。
「このままだと響子には見捨てられますね。でもそれが分相応だろうとも思えてきた。僕はきっと響子とその娘を幸せにはできない。真知にあれだけひどいことをしたのだから、それが当然だとも思います」
響子さんの住んでいるアパートは、半年後に更新を迎える。それまでには真実を話さなくてはいけないとわかっていながら、彼は今日もまた言えなかったとため息をついてベッドに潜り込むのだとため息交じりにつぶやいた。
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妻子と向き合わずに逃げてきた「ツケ」を支払うときが、賢哉さんのもとにやってきたように思える。そしてその期限は長くはない。真知さんと正式に別れ再婚することができるのか、響子さんにすべてが露見し別れを切り出されてしまうのか。あるいは「すべて」を失ってしまうことも考えられる……。事態を招いた賢哉さんの振る舞いは【記事前編】で紹介している。
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