夜の路上で“赤ん坊を抱いたあざだらけの女性”を助けたら…45歳夫が「DV被害妻」と続ける奇妙な関係
「なんとかしなくちゃ」の気持ち
彼女を連れて帰り、言われるがままにミルクなどを買うため再度、彼は外に出た。警察に届けたほうがいいとわかってはいたが、彼女の必死さにつきあうつもりになっていた。コンビニには粉ミルクが売ってなかったため、徒歩15分もかけて24時間営業のスーパーに行き、ミルクやおむつなど最低限の必要なものを購入した。
「帰ると子どもがギャン泣きしていました。お腹がすいていたみたい。彼女はミルクを作り、飲ませると、ホッとしたのかいきなり倒れるように眠りました。子どもは生後半年だと聞いていたので、朝になるまでにもう一度、ミルクをあげて。それでも彼女は目を覚まさなかった。よほど心身ともに疲れていたんでしょう。こちらも必死でしたよ。あんまり泣かれると困るし。ただ、ミルクを与えるとニコニコ笑う、いい子でした」
どうして自分がこんなことをしているのか、彼自身が信じられなかったが、目の前の弱った親子を放り出すわけにはいかなかった。そのときは「なんとかしなくちゃ」という思いだけだったという。
「その日がたまたま金曜日で、彼女は土曜の夕方まで眠っていました。突然、ハッと目を覚ましたときは、ここがどこなのかもわかっていなかったみたいだった」
DV被害者の響子さん
賢哉さんが説明すると、彼女はすべて思い出した。響子と名乗り、住所や夫の仕事、こうなった顛末を語り出した。実家の両親はすでに亡く、頼れる親戚もいない。以前、同じような状況で友人宅に逃げたら、夫は友人に執拗な嫌がらせをしたため、もう友人も頼れないとつぶやいた。
「弁護士をつけて離婚を考えたほうがよさそうだと言うと、夫に携帯電話も取り上げられており、まったく自由がないと泣くんです。聞いているこっちがせつなくなってきた。どうして妻に暴力をふるうことができるのか。ただ、そのとき思い出したのは両親のことだった。年中、激しい取っ組み合いのケンカをしていたのにお互いを心から欲していた。一方、僕は妻との関係を自分が逃げることで疎遠にした。響子が何度も逃げながらも夫の元へ帰っているのは愛情からではないのか。そう聞いてみると『生活ができないから、あの人のところにいるしかない』と響子は泣く」
勤務先で世話になっている弁護士に連絡をしてみると、自分は民事に疎いからと離婚を主に扱う女性弁護士をすぐに紹介してくれた。その弁護士に電話をすると、まずは警察に行けということだった。弁護士もすぐに来てくれるという。
「彼女は費用が払えないと言っていましたが、そういう問題ではない。あなたも子どもも命の危険があると言ったら、ようやく動いてくれた」
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