夜の路上で“赤ん坊を抱いたあざだらけの女性”を助けたら…45歳夫が「DV被害妻」と続ける奇妙な関係

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いい友人ができた

 賢哉さんは警察に送っていき、弁護士に引き渡した。自分の携帯電話だけは伝えておいたが、響子さんからはなかなか連絡がこなかった。彼は弁護士に「自分が費用を払うから、なんとか彼女を離婚させてやってほしい」と頼んだ。差し出がましいのはわかっていたが、彼女は怯えているからまた夫のもとへ戻ってしまう、それが怖いと弁護士に伝えた。

「弁護士から逐一、連絡をもらって、夫が逮捕されたこと、彼女が民間のシェルターに移ったことなどを聞きました。よかった、これで命だけは助かったとホッとしたのを覚えています」

 数ヶ月後、事務所に彼女が来る、賢哉さんに同席してほしいと言っていると弁護士から連絡があった。

「あのときとはまったく印象の違う彼女がいました。落ち着いた感じで、とてもきれいだった。女性弁護士から、離婚が成立したこと、元夫から慰謝料と養育費についても取り決めをしたと聞きました。響子があのとき抱きしめていた娘は、かわいい服を着て笑っていました。『この服、先生の娘さんのお下がりなんです』と彼女は言い、女性弁護士も笑っていました。『なんだか他人事とは思えなくて、私も張り切っちゃいました』と弁護士が言う。彼女もDV男に苦しめられた過去があったそうです。響子にとっては最高のバディだったわけですね」

 今後は親子で入れるシェアハウスに住み、響子さんは仕事を探すと言っていた。彼女は看護師の資格をもっていたので、仕事はすぐに見つかった。

 その後はたまに連絡をとったり、ごくまれに食事に行ったりするような関係が続いた。会うたびに元気になっていく響子さんがまぶしかった。

「僕も出張三昧の日々が続いていたから、本当にときどきしか会えなかったけど、いい友人ができたと思っていた。響子もそう思っていたようです。彼女との距離を縮める気はありませんでした。僕はこんなしょうもない人間だし、彼女がもう男はこりごりだと感じているのがわかっていたから」

勤務先に訪ねてきた男の子

 そんなある日、勤務先に若い男の子が訪ねてきた。受付から連絡があってエントランスに行ったとき、賢哉さんはそれが自分の息子だとすぐにわかったという。

「近くの喫茶店に行きました。彼は何も言わずに僕の顔を見ていた。僕は『ごめん。申し訳ない』と頭を下げました。彼は『おかあさんの言うとおりだ』と笑うんです。『おとうさんは素敵な人だった、ちょっと気が弱いところがあったけど』といつも言ってたと。家族が負担だったの、僕が邪魔だったのと言われて、『そうじゃない。気が弱いから逃げてしまったんだ。申し訳ない』と頭を下げるしかなかった。目の前の息子は、きれいな目をしていました。愛されて育ったんだろうとわかるような表情だった」

 離婚届は出していないから、戸籍上は真知さんとまだ夫婦だし、息子も彼の長男として記載されているはずだ。そのために真知さんは再婚もできなかったのだが。

「おかあさんの再婚を邪魔してしまったと言うと、『かえってよかったみたいだけど』と息子が言う。どういうことか聞いたら、真知が再婚すると言っていた男性は他の女性にもプロポーズしていたのだそうです。のちのち真知が笑い話のように息子に語ったって」

 息子が見る限りでは、「母に男友だちはいるけど恋人がいるような気配はあったためしがない」そうだ。それを聞いて、賢哉さんはホッとし、ホッとしている自分を嫌悪した。息子の今後の学費は自分が出すと言うと、「お金は大丈夫。おかあさんは自分で事業を興して成功しているし、おじいちゃんやおばあちゃんも元気だから」と断られた。

「ちょっとみじめでした。自分が放置した妻は今や成功者で、息子も立派に育っている。オレは何をしてきたんだろうと。『そのうちおかあさんと3人で食事でもしない?』と息子に言われ、息子にまで憐れまれているような気がしました。僕がひねくれているだけですけど、たぶん」

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