ようやく開花した「琴勝峰」 ホープと呼ばれながらもケガで低迷…「刺激になったのは間違いない」と明かした存在とは【令和の名力士たち】
東西横綱が揃い、若手力士の躍進もめざましい大相撲。令和の相撲人気は高止まりを続けているが、いつの世も真に人を魅了するのは、力士たちの磨かれた技と個性だ。ノンフィクションライターの武田葉月氏が、注目すべき現役力士たちを紹介するシリーズ「令和の名力士たち」。第3回は名古屋場所で初優勝を飾り、このまま波に乗った活躍が期待される琴勝峰が登場する。
***
【写真】優勝しても「静かなる男」…秋場所は東の前頭5枚目! 期待高まる「琴勝峰」
名古屋場所13日目、大の里から金星
東西に豊昇龍、大の里の2横綱が揃った大相撲名古屋場所。
40年ぶりに本場所の会場が変更され、愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)からIGアリーナに移り、そのコケラ落としとなったこの場所は、日本中の注目を集めた。
そんな中、豊昇龍は初日から1勝3敗と大不振で、5日目から休場。新横綱・大の里は10日目まで3敗を喫するなど、優勝争いは安青錦、一山本、琴勝峰、新入幕の草野の平幕力士たちが引っ張ることになった。
13日目、琴勝峰が大の里から金星を上げたことで、優勝の行方は琴勝峰、安青錦が俄然有利に。14日目には、琴勝峰が元大関の霧島を上手投げに仕留めると、千秋楽は、2敗の琴勝峰と3敗の安青錦の一番で優勝が決まるという展開になった。
ウクライナ出身の安青錦は、まだ21歳。入門から約2年。負け越しなしで、前頭筆頭まで番付を上げてきた「新星」だ。182センチ、138キロの小柄な体から、前傾姿勢を崩さず、相手を低く攻めていくスタイルは、腰高の力士にはイヤがられる存在でもある。190センチの長身、琴勝峰には、「難敵」の1人だ。
この相撲を続けていけば大関も狙える
琴勝峰が勝てば、初優勝。安青錦が勝てば、3敗力士での優勝決定戦になるという大一番。立ち合いから落ち着いて、安青錦を突き落としで制したのは、琴勝峰だった。早くから「ホープ」と言われ続けた男が、ようやく花開いた瞬間でもあった。
優勝を決めたインタビューでは、
「(優勝した)感情がまだ追いついていません。でも、うれしいです……」
と控えめに、感想を語った琴勝峰。
大一番をかげから見守った師匠(佐渡ヶ嶽親方=元関脇・琴ノ若)も、
「涙がこぼれました。(琴勝峰は)ケガが続いて、苦しんでいるところを見てきたから、この優勝はこれまでガマンしてきた結果が出たものだと思います。今場所は、『攻める』気持ちが特にあった。この相撲を続けていけば、大関も狙える」
と、愛弟子の初優勝を手放しで喜んだ。
優勝パレードの旗手は、昨年九州場所の優勝力士で、高校(埼玉栄高)からの先輩でもある大関・琴櫻が務めた。佐渡ヶ嶽部屋はこの1年で2度の優勝力士が出る快挙となった。
[1/3ページ]



